☆インプラント治療Q&A その2 2022年版

インプラント治療のしくみ?

・インプラントを埋入する場合、骨が多ければ多いほど手術は簡単なのですが、骨が薄かったり少なかったりしたときは、骨移植などのテクニックを併用して行われます、
・インプラント治療は、麻酔→切開→埋入→縫合→抜糸→印象採得(型取り)→終了という流れで行われます。

・インプラントの埋入のときは
インプラント治療は、歯根(歯ぐきの中に埋まっていて、通常はレントゲンを撮らないと見えません)を含めてすべて抜歯してしまった場合に必要となります。インプラント(lmplant)の訳は「植え込む」ですから、まさに人
工の歯根を埋め込むことからインプラント治療は始まります。歯科の専門用語としてはインプラントを植え込むことを「埋人(まいにゅう)」と呼んでいます。インプラントを埋入する場合、骨が多ければ多いほど手術は簡単なのですが、必ずしもそういった症例ばかりではありません。骨が薄かったり少なかったりした場合にはサイナスリフト(インプラント埋大に骨の量が不足している場合に、移植骨や骨補填材によって上顎洞(サイナス)の底部を押し上げて骨増成する治療法。)、ソケットリフト(特殊な機器を用いて上顎洞の底部を押し上げてインプラントを埋大するための骨量を確保する技術。)、リッジエクスパンジョン、骨移植(インプラント埋入部分の骨が不足している場合、骨の量を増大させる方法として行われる)等々の呼び名が付いたテクニックを併用して行われることとなります。

・麻酔をしっかり
インプラントを埋入するときは、もちろん麻酔をしっかりしたうえで行うのですが、使用する麻酔は、虫歯を治療するときと全く同じものを使います。麻酔の量は、虫歯治療の場合と比べて多くても3倍程度ですから、体への負担は同等だと思っていただいてかまいません。

 

・歯肉(≒歯ぐき)を切開
インプラントを埋大する部分は、歯ぐきの中に隠れている顎の骨です。インプラント埋入手術ではこの骨に直接治療するために歯肉(≒歯ぐき)を切開してから行う方法が一般的です。最近では切開をせずに行う方法も開発されてきており、それぞれにメリットとデメリットがあります。切開せずに手術をするメリットは、傷が小さいために腫れたり痛みが出る可能性が低くなることです。反面、直接骨を見ずに手術を行うことになるために、埋入位置に誤差が出る可能性がある、というデメリットがあります。どのメーカーのインプラントでも、埋大するインプラント体(フィクスチャー)には数種類の直径、長さのものが用意されています。埋入する位置、骨の幅と高さ等によって使い分けるのですが、いずれにしても、規格化されたメーカー指定のドリルで骨に穴を開けることになります。

 

・麻酔の効きが悪いと感じたときは
もちろん麻酔が十分に効いている状態で行いますから、痛みは全く感じないのですが、もしも少しでも麻酔の効きが悪いと感じた場合でも、追加の麻酔をすれば必ず痛みは抑えることができます。

 

・インプラント埋入術中に感じる苦痛は2つ
ドリルで骨を削っているときには、どうしても振動が生じてしまいます。また、骨を削るときに発生する熱を冷却するために食塩水(=生理食塩水)を使用するために切削中に口の中がしょっぱく感じます。インプラント埋入術の術中に感じる苦痛は主にこの2つであるといえるでしょう。とはいっても、振動や塩味のために手術が中断となった経験はありませんから、普通の歯科治療を経験した方なら十分我慢できる範囲であると思います。埋入術中には口を大きく開けたままになる時間があります。手術を行うためにすべての器具を厳格に滅菌していますので、骨やドリル、インプラント体が唾液によって汚染されないようにしなくてはいけないのです。特に奥歯のインプラントの場合は、口をあける度合いが大きいと思われます。

 

・縫合・抜糸
インプラントが埋入されたところで、縫合を行います。この縫合は親知らずを抜いたときや歯周病の手術等で歯科医師だったら毎日行っている手技ですので、ご安心ください。抜糸は、約1~2週間後となりますが、その間に数回は消毒のために来院していただくことがあります。傷口の治り方によっては複数回の消毒が必要な場合もありますので、手術から抜糸までの間に旅行や出張が重ならない日程を組んでおく必要があると思います。インプラントには1回法と2回法がありますが、その選択によって術直後に金属が見える場合と、まったく歯肉の中に隠してしまう場合があります。1~2週間後の抜糸は、基本的には麻酔をせずに行うことができます。糸を抜くとなると、緊張される患者さんも多いのですが、実際には痛みもなくスルっと簡単に抜けるものです。現在使用されているインプラントの多くは2ヒースタイプといって、インプラント体の部分(手術によって骨に埋め込む部分=フィクスチャー)と、その上にかぶせ物の土台となる部分(フィクスチャーにさらにねじ止めする部分=アバットメント)の2つのパーツから成り立っています。

 

・印象採得で完成は間近
それぞれの患者さんにぴったりの土台(アバットメント)を選択して最終的に噛める状態をつくるためには、天然の歯をつくるときと同様に型取りが必要です。これを印象採得といいますが、ここまで来れば完成はもう目の前です。骨の状態によりますが、この印象採得を行うまでに3か月~5か月の期間が必要といわれています。多くの患者さんは1日でも早い完成を望まれますが、無理に型取りに進むよりは安心できる状態になるまでお待ちいただいたほうが最終的には良好な結果を得ることができます。一生使う歯ですから、一番安全な方法を選びたいですね。

 

・アバットメントを試適する
歯科の用語でぴったり適合するか試みることを「試適」と呼んでいます。型をとったのちに最終的に使用する土台(アバットメント)が痛みもなく口の中に入るかどうかを検査することがあります。印象をとったときの歯ぐきの形が印象に反映されるのですが、その下にある骨の形態によってアバットメントをきつく感じることがあります。また歯ぐきの厚みや硬さによっても違和感を感じることがあります。

 

・見た目の確認は
このステップですでにインプラントの位置が決まっていますので、その中でできるだけ患者さんの希望に沿った上部構造を考えていく必要があります。

インプラント治療にあたっての留意点は?

・インプラント治療は、歯を失った場合の治療としては第一選択ですが、メンテナンスフリーで入れてしまえば一生安泰といった、夢のような治療法ではありません。
・手術の偶発症や治療の予知性のレベルについても、詳しく説明を受けてください。

・費用やおおよその治療期間についてもしっかり把握していなければいけません。

 

・インプラント治療の理解と診断
初診でインプラントを希望されている患者さんには、まずはインプラント治療がどういったものなのかを正確に知っていただく必要があります。インプラント以外の治療法と比較したうえでその必要性、優位性をよく理解してください。また、費用やおおよその治療期間についてもしっかり把握していなければいけません。インプラント治療は、歯を失った場合の治療としては第一選択ですが、メンテナンスフリーで入れてしまえば一生安泰、といった夢のような治療法ではありません。ぜひとも手術の偶発症や治療の予知性のレベルについても、この期間に詳しく説明を受けてください。

・治療計画に必要な情報は
インプラント治療を受けるにあたっては、適切な治療計画が重要です。そのためには、口腔情報を総合的に判断していく必要があります。インプラントによってつくられる歯が前歯を含む場合は、そのおおよその見た目を確認する必要があります。すでに骨が失われている場合が多いために、患者さんが期待している完成形と、歯科医師ができるものとに差がある可能性があります。インプラントの上部構造は固定式以外も選べますので、機能と見た目のバランスをよく相談していただく必要があります。特に、骨の状態については、レントゲン写真による診断が重要となりますが、顎の骨のCT撮影を行うことでより正確に骨の幅、厚み、三次元的な位置関係を知ることができます。最近では、CT撮影ができる施設も増えてきており、複雑な手術には不可欠でもあるともいわれています。
治療計画には、インプラント術を行う部位だけでなく、口の中全体の治療も同時に考える必要があります。もしあなたに治療途中の歯、新しい虫歯、詰め物が脱落した歯、歯周病等がありましたら、それらを含めたすべてが治療計画となります。

・虫歯と歯周病があるときのインプラント治療は
虫歯すべてを完治させてからインプラント治療を始めることもありますが、長い期間が必要な場合には、まずインプラントを埋入してしまい、インプラントが定着するまでの時間を利用して他の虫歯を治療していく方法がとられることも多いです。しかしながら歯周病については併行すべきではない、という考えが主流です。 多くの場合、歯周病が治癒しないままインプラント治療を始めるべきではありません。インプラントを埋人しても天然の歯と同様に歯周病と同じ病態が起こることがあります(歯→インプラントとなるため、歯周炎→インプラント周囲炎と呼ばれています)。重度の歯周炎に罹患している口の中の環境では、インプラントもインプラント周囲炎になりやすくなることは容易に想像できると思います。歯周病は、口の中で繁殖する細菌を除去することで治りますが、その方法としては、次の2つが重要といわれています。
(1)自分がブラッシングによって細菌のかたまり(プラーク)を除去できるようになる(良好なプラークコントロール)
(2)定期的に歯科医院で歯石を除去する

 

・歯周病治療は歯磨き指導から始める
ですから、初診からインプラント治療を始めるまでには、まず歯周病の治療をしていただく必要があります。歯周病治療は歯磨き指導から開始されます。初診の時点で上手に歯磨き=プラークコントロールができている患者さんの場合は、この歯磨き指導にはさほど期間を要しないでしょう。しかしながら、歯磨きに問題がある場合は、改善されるまで歯磨き指導を受けていただく必要があります。「歯磨き」については、歯科医師や歯科衛生士といった歯科医療従事者と、一般の患者さんとの間に認識の違いがあることがあります。一般の患者さんは、「歯磨き」はエチケットとしての口臭予防や自分の不快感の解消を目的とされていることが多いと思います。しかし、歯科医学的には歯磨きを「細菌を物理的に取り除くための手段」と考えています。すなわち、きちんとした歯磨きができるということは口の中の細菌が取り除くことができる、ということです。

手術から安静期間までの治療は?

・手術を行った翌日か翌々日に、消毒のために来院していただきます。しかしながら多くの場合、消毒といっても、手術部位の確認が主な目的となっています。
・この時期に問題が起きていれば、早いうちに対応する必要があるからです。

・手術部位の確認が主な目的
手術を行った翌日か翌々日に、消毒のために来院してもらうこともあります。しかしながら多くの場合、消毒といっても、手術部位の確認が主な目的となっています。この時期に問題が起きていれば、早いうちに対応する必要があるからです。また、患者さんが渡した薬をちゃんと飲んでいるか、喫煙や飲酒等の約束を守っているか、うがい薬を自分の判断で使用していないかなどについても、確認する必要があります。炎症症状(赤くなる、腫れてくる、痛みがある等)によっては、薬を飲む期間を延長したり、薬の内容を変更することもあります。その場合は、担当
医の指示にきちんと従う必要があります。また、縫合した糸が運悪く取れてしまったり、予想以上に歯肉が縮んで糸
がたるんでしまった場合は、少量の麻酔をして縫い直すこともあります。この場合も、良い予後を得るためには必要なことです。

・初期感染のリスクを減らすために歯磨きが必要
インプラント手術によっては、手術の直後から口の中に金属のパーツが見えている場合があります(これは、インプラントメーカーや担当医の術式の選択によります)。あるいは前歯などで手術と同時に仮歯を入れてもらえる方法(即時修復・即時荷重といいます)をとる場合があります。このような術式では、手術後3~5日の間に手術部位をやわらかい歯ブラシで清掃してもらうことがあります。術直後に歯肉を閉じてしまう方法(2回法)と比べて口の中の細菌がいる環境に露出する部分があるために初期感染のリスクを減らす目的で歯磨きが必要な場合もあるのです。

・インプラント自体が揺れているときは
インプラント手術と同時に仮歯を入れる方法(即時荷重)の場合や、1回法のインプラントでは手術後数週間のうちに揺れてくることがあります。その原因は、2つ考えられます。1つは仮歯の芯になっている部分の緩み、もう1つはインプラント自体が骨から離れて揺れてきている場合です。仮歯だけが揺れている場合は、ネジを締めればいいのですが、インプラント自体が揺れている場合は、再度固定しなおすか再手術することになります。

・失った歯の本数が多いときは
失った歯の本数が多い場合は、完成までに入れ歯を使っていただくこともあります。入れ歯の下の粘膜のさらに下にインプラントがあるため、入れ歯の当たり具合は慎重にチェックしなくてはいけません。もし、入れ歯が粘膜の下のインプラントを圧迫していると、骨とインプラントが結合する前に脱落してしまう危険性があるからです。患者さんとしては痛みを感じていなくても、じわじわと骨が侵されてしまうことがあると考えられています。下顎のインプラントの場合、偶発症として神経の知覚麻輝が出ることがあるといわれています。これは下歯槽の骨の中に下顎神経というものがあり、これを損傷したり圧迫することで麻痺が出てしまいます。事前のレントゲンやCTによる診査で、この偶発症の多くは防げるのですが、もし手術後に麻痺がわかったら、早めの対応が必要です。

・知覚麻庫を感じたときは
できるだけ早く担当医にお伝えください。麻痺を解消するには少しだけインプラント体を緩めるだけで収まる場合もありますし、一度撤去しなくてはならない場合もあります。治療が後戻りすることになりますが、安全策をとることが大事だと思ってください。また、撤去しても麻痺が改善しない場合は、神経が復活するためのお薬を飲んでいただきます。

安定期間から仮歯までの治療は?

・安定期間に入ったら、最低でも3ヶ月は待つ必要があります。
・安定期間を過ぎると、二次手術を行うことになります。

・安定期間に入ったら、最低でも3ヶ月は待つ必要がある
安定期間に入ったら、最低でも3ヶ月は待つ必要があります。自分の骨とインプラントが結合(インテグレーション)するまでには約3ヶ月かかるといわれているからです。また、症例によっては骨が少ない場所に埋人しているため、これ以上の期間(4~6か月)待ったほうが予後がよくなることもあります。この安定期間は、せっかく手術したインプラントが長持ちするために必要な期間ですから、焦って担当医を急がせたりすべきではないでしょう。

 

・安定期間を過ぎると、二次手術を行う
安定期間を過ぎると、二次手術を行うことになります(インプラントの種類によっては二次手術が必要でないものもあります)。二次手術は、通常、麻酔をしたうえで行います。歯肉全部を開いて二次手術後に縫合する方法と、しない方法があります。近年はできるだけ患者さんの体への侵襲を減らすために歯肉を開かず、術後の縫合もせずに済む方法が選ばれることが多いです。これはパンチングという方法で、専用の型抜きリングのようなもので歯肉をくりぬく方法です。もちろん麻酔は必要ですが、少量で済みます。また、型抜きリングではなくレーザー光で歯肉を除去する方法や、インプラントのメーカーによっては歯を削る道具で歯肉を削ることもあります。

 

・仮歯を入れる
この時点で、すでに骨とインプラントはしっかり結合していますので、仮歯を入れることができます。仮歯を入れたのちに歯と歯肉の形が一番美しくなるように調整していきます。つまり、仮歯の時期に最終的な形態を決定していくわけです。

インプラントの種類・構造は?

・現代のインプラントは、失った歯根に類似して円柱もしくは円錐状の同じ形態をしているものを使用しています。
・現代のインプラントを分類するにあたり、①埋入する部分 (フィクスチャー)の形態、②上部構造(アバットメント)との接合方法 ②表面性状、などが大きなポイントとなります。

 

・現代のインプラントは失った歯根とほば同じ形態のものを使用
過去に使われていたインプラントとして、ブレード型インプラント、骨膜下インプラント、歯内骨内インプラントなどがあります。どれも第一選択として用いられることはなくなってしまいましたが、現在でも十分機能しているものがあるといわれています。現代のインプラントは、失った歯根とほぼ同じ形態をしているものを使用しています。
インプラントのメーカーは、世界中に数百社あるといわれていますが、それぞれに特徴があります。各社の製品に長所、短所があると考えられますが、最終的にどの方式が将来残っていくかはまだわかりません。ストレートタイプは、ブローネマルク、ストローマン、3i、カルシテック等の大手メーカーで採用されている形態です。同じ深さの埋大ならば骨との接触面積が最大になる、ということや埋入深度の調整が容易であるというメリットがあります。デメリットとしては、先端まで同じ太さであるために隣の歯とインプラントが接触してしまう可能性が高まること、埋入する部分の骨が薄い場合であっても多めに骨を削らなければいけないこと、等があげられます。テーパータイプはリプレイス(ノーペルバイオケア社)、POI(日本メディカルマテリアル)、アンキロス、アストラなどのブランド、メーカーがあります。テーパータイプのメリットはテーパー(円錐状で先細りの形態)のために骨への食込みが期待されるために良好な初期固定が考えられることです。また、先端が細いために必要な長さのインプラントを埋大した場合でも、隣の歯を傷つける可能性がストレートタイプに比べて格段に下がります。天然の歯も先端は、細くなっているためにルートフォームともいわれています(ルート=歯根、フォーム=形態)。天然の歯と似た形態のために力学的なメリットもあると考えられています。

 

・上部構造との接合方法は
上部構造との接合方法は、大きく分けて2種類あります。 1つはインターナル(internal)タイプ、もう1つはエクスターナル(external)タイプです。現在は、インターナルのシェアがやや多いと思われますが、エクスターナルを選択しているメーカーの主張にももっともな部分があります。インターナルタイプとは、骨に埋め込む部分(フィクスチャー)の上部が凹んでいて、その凹みに上部構造を差し込む構造になっています。逆にエクスターナルタイプは、埋め込む部分が凸状になっています。医院によっては、それぞれの特徴を生かして使い分けていることもあるようです。近年、プラットフォームスイッチングといって、埋めた部分(フィクスチャー)と上部構造(アバットメント)との間に段差をつくったほうが細菌の影響を受けづらいという考えがあります。

 

・表面性状①/チタン合金を粗造に加工されたインプラント
現在、多くのインプラントに用いられています。以前は機械で鏡のようにピカピカに磨かれたインプラントが用いられていましたが、現在では、暫間インプラントの一部を除いてすべて表面はサラサラに加工されています。表面がピカピカなものに比べて骨との接触面積が多くなることがサラサラに加工されたもののメリットだと考えられています。加工方法は、各社それぞれの研究結果を元に特徴を出しているようです。1990年代後半、この表面が粗いインプラントが発売されて、現在の安定したインプラント治療が確立されてきた、と考えられます。

 

・表面性状②/ハイドロキシアパタイト(HA)コーティング
ハイドロキシアパタイトというのは、天然骨のカルシウム分と同じ物質で、金属であるチタン合金よりも骨と結合しやすいと考えられています。ハイドロキシアパタイトコーティングインプラントの問題点としては、コーティングが剥がれる可能性があること、感染した場合に一気に進行すると考えられていることなどがあります。逆に、骨がない場所で初期固定がなくても埋入できたり、埋入後に動揺が起こっても増し締めすることで定着することができる、等のメリットがあるといわれています。それぞれの特徴を生かして使い分けるのが賢明でしょう。

 

・ワンピースタイプのインプラントは
多くのインプラントでは、2ピースといって埋込む部分と上部構造とをネジ止めしているものが多いのですが、ワンピースタイプといってすべて一体化しているものもあります。ワンピースインプラントは、現在主流ではありませんが、メリットとしては、アバットメントとの接合部分がないために破断や感染のリスクが減ることです。デメリットとしては、口の中に露出する部分の方向が決まってしまうので、埋入方向か難しいこと、上部構造の選択肢が限られてしまうことなどがあります。

インプラントの材料は?

・現在使用されているインプラントのほとんどは、2ピースタイプで、基本的には純チタンかチタン合金が用いられています。
・最近増えつつあるのがジルコニア製アバットメントです。

・チタン合金が用いられている
現在使用されているインプラントのほとんどは、2ピースタイプです。その組成も、各社研究されていますが、基本的には純チタンかチタン合金が用いられています。1950年半ばにスウェーデンのブローネマルク博士が純チタンに骨が強く結合することを発見したことが現代のインプラントの礎となっています。チタンは生体親和性が高く、生体アレルギー反応を起こす例も非常に少ないために最もすぐれた材料といえます。また最近では、オールジルコニアというすべて白い材質でつくられたインプラントもつくられ始めています。しかしながら骨との結合能力ではまだまだチタンに軍配が上がるようです。ここでは現在主流の2ヒースタイプのインプラントについて解説いたします。

 

・インプラント体(フィクスチャー=埋入部分)は
表面処理方法は純チタンまたはチタン合金の表面を粗く加工したタイプとハイドロキシアパタイトをコーティングしたタイプとがありますが、ベースとなる材質はいずれも純チタンまたはチタン合金です。純チタンまたはチタン合金は、生体親和性が高いだけでなく、強度的にもインプラントが具備すべき条件を満たしていますので、現在最も適した材料と考えられています。純チタンまたはチタン合金と骨との結合力はとても強く、実際にインプラントを除去しなくてはいけない症例があったとしても大変な労力を要するといわれています。インプラント周囲炎が起きて周囲の骨が吸収されない限り、インプラントが取れてしまうことはないとお考えください。

 

・アバットメント(上部構造部分)は
現在の主流は、インプラント体と同じく純チタンまたはチタン合金製のアバットメントです。このチタン合金製アバットメントに加えて、最近増えつつあるのがジルコニア製アバットメントです。ジルコニアは、チタン合金以上の硬さを持っているうえに色が白いために前歯部に用いた場合、非常に審美性に優れた歯冠修復が可能となります。

 

・最終的な補綴物は
完成時に実際に歯として口の中につくられる部分を補綴物と呼んでいます。インプラントの場合、多くはクラウンやブリッジとなりますが、総入れ歯を補助的に支えるためにインプラントを用いる場合は、最終的な補綴はやはり入れ歯となります。

 

・クラウン・ブリッジの材質は
上記のインプラント体、アバットメントは、完成時には口の中では見えなくなってしまいます。患者さんが肉眼で見ることができるのは、「クラウン」の部分です。クラウンの部分については金属、セラミック、ジルコニアが主に使用されています。クラウンをアバットメントに付着させる方法も主に2種類あり、セメント(接着剤)を用いる方法とネジ止めする方法とがあります。インプラントの上部構造として、クラウンやブリッジで対応できない症例もあります。 1つは骨の吸収が大きい症例、もう1つは失った歯の本数と比べて少ないインプラントの埋人本数で支える設計にした症例です。骨の吸収が大きい場合はガム付き(ガムgum=歯ぐき)とも呼ばれ、白い歯の部分だけでつくってしまうと極端に長くなってしまうためにピンク色の人工の歯ぐきを歯の根元に追加する方法です。患者さんの中には歯を失ったのだから白い歯だけでつくってほしい、という方も多いですが、実際には歯ぐきの体積も骨と同時に大きく失われているのです。ピンクの歯ぐき十白い歯という構造を採用することによって、より自然な口元が再現されることもあるのです。

 

・治療費用の負担を考えてインプラント本数を少なく設計
患者さんの治療費用の負担を考えると、使用するインプラントの本数が少なく設計する必要があります。もちろん力学的に無理な設計はできませんが、最近の世界的な潮流として少数のインプラントで全体を支える試みがなされています。この場合、12~14本あった歯を最少では3~4本のインプラントで支えることになりますので、インプラント体も大きな負荷がかかっても大丈夫な位置に埋入することになります。そのため、本来の歯があった位置とは若干のずれが生じることがあり、天然の歯に似た形態だけでは補いきれずに歯ぐきが追加された上部構造となってしまいます。

一次手術ってどういう治療のこと?

・一次手術とは、インプラントを顎の骨に埋入する手術のことです。
・一次手術を行う前に口の中が清潔になっていないといけません。

・一次手術というのは
一次手術とは、インプラントを顎の骨に埋入する手術のことです。一般的には虫歯を治療するときと同じ麻酔を使って行いますので、全身麻酔を使った手術とは違って会話ができる状態で行われます。また、麻酔によって麻痺した状態で行いますので、痛みを感じることはなく、もし患者さんが一番感じるとすれば骨を削る振動の不快感でしょう。さらに、ドリルを冷却するために生理食塩水を使用します。そのため骨を削っている間は口の中がしょっぱい時間があります。

・一次手術を行う前に口の中が清潔になっていないといけない
一次手術を行う前に口の中が清潔になっていないといけません。一次手術の当日までに歯石の除去(スケーリング)が終了している必要があります。また、手術直前にも歯科衛生士によって最終的なプラーク(細菌のかたまり)の除去を行います。手術を始める数時間前~前日に前投薬といって、抗生物質を服用していただくこともあります。これによって手術中にある程度の細菌の侵入があっても防御する能力ができるわけです。手術に使用する麻酔薬は、塩酸リドカインという非常に一般的なものを使用します。虫歯や親知らずの抜歯等の歯科治療においても、95%以上はこの薬を使用していますので、過去に歯科治療で麻酔を使ったことがある方には全く問題ないでしょう。

・麻酔が効いたところで歯肉の切開
インプラントは骨に埋めるものですから、よく麻酔が効いたところで歯肉の切開をします。患者さんはここで痛みを感じることはないのですから、感覚としては強く押されている、というだけのものでしょう。切開が終わると、骨の切削に大ります。細い直径のインプラントでは4種類ぐらいのドリルしか使用しないで埋入の準備ができてしまいます。太い直径のインプラントでは、さらに2~3種類のドリリングが追加されます。術前のレントゲンやCTによってかなり正確に骨の形や位置、大きさが把握されていますが、場合によっては術中に確認のためのレントゲン撮影を行うこともあります。

・インプラント体の埋入そして完了
インプラント体(フィクスチャー)の埋入はあっという間です。単純に埋めるだけなら1分もかからないのではないでしょうか。ただし、埋入の深さが決定しづらい症例ではいろんなポイントを確認しながらの手術となりますので、若干時間を要します。インプラントの埋入ののちに、切開した歯肉を閉じます(縫合)。この縫合がきれいにできるかどうかは予後に関わってきますので、大事なステップです。これで手術は完了です。埋入後にCT・レントゲンを撮影し、術後の注意事項、投薬方法の説明を受けて帰宅となります。

・翌日・翌々日は観察の日
翌日、もしくは翌々日が消毒と予後観察の日になります。ここで異常な腫れや感染がわかったら相応の処置が必要とすることがありますが、問題がなければ縫合した糸を抜くのは手術より約1~2週間後ですので、次回は翌週の予約ということになります。 一時手術において歯ぐきを切開する範囲が少ないほど腫れや痛みが出にくなります。 現在ではCT撮影とシミュレーションソフトの発達により、切開することなく一次手術を行う方法もあります。ただし、骨を直接観察することなくコンピュータ画像から作製されたガイドだけを信じて行う方法なので、骨が十分ある症例には適していると思います。

二次手術ってどういう治療のこと?

・歯肉の中に埋まっているインプラントを口の中に見える状態にするのが二次手術です。
・二次手術が不要な1回法を選択するかどうかは、手術部位の感染リスクの評価や患者の通院能力などによります。

・二次手術というのは
インプラント埋入を行って2ヶ月を超えた頃には骨とインプラントが結合してきます。ここで歯肉の中に埋まっているインプラントを口の中に見える状態にするのが二次手術です。インプラントのメーカーや、術式によってこの二次手術が必要のない場合があります。これは、1回法といって、インプラントの一次手術の時点において歯肉からインプラントのパーツが見える状態をつくって縫合する方法です。1回法では抜糸後、歯肉が治癒するときれいにインプラントのパーツ(ヒーリングアバットメント)が歯肉から顔を出している状態になります。ですから、二次手術が不要なのです。

 

・1回法を選択するかどうかは

二次手術が不要な1回法を選択するかどうかは、手術部位の感染リスクの評価や患者の通院能力などによります。一次手術の後に患者さんの都合で来院時期が決められなかったり、遠方のために少しでも感染リスクを減らしたい場合は、2回法を選択したほうが無難かもしれません。また2回法として開発されたインプラントでも、一次手術の際に仮りの土台(テンポラリーアパットメント)を使用して1回法と同じ手技とすることも増えています。その場合は、二次手術は不要です。一次手術と同時に仮歯を入れた症例でも、二次手術は不要です。二次手術といっても、簡単なケースでは5~10分程度で終わることもありますので、安全策をとるならば2回法を選択することが多いのです。

 

・歯肉に問題があるときは二次手術と追加の処置が必要
歯肉に問題がある場合は、二次手術と同時に追加の処置がなされることがあります。一番可能性として高いのは、付着歯肉という部分の幅が少ない症例です。完成したインプラントの周囲は、この付着歯肉という硬い歯肉で囲まれていないと歯磨きのときに痛くなってしまい、インプラント周囲炎の原因となりかねません。歯肉の移動術というのは、埋人したインプラント体周囲の一部にのみにしか付着歯肉が存在しない場合に、麻酔下でインプラントを取り囲むように移動させる方法です。個々の症例によって歯肉の形が異なるために用いる術式も多様です。歯肉の移動だけならば、インプラント周囲に限局して行うことができますが、移動だけでは付着歯肉を得ることが難しい場合は、歯肉の移植術が行われます。移植する歯肉は、上顎の内側(口蓋といいます)が用いられることが多いです。本来インプラントとは関係のなかった部分からの移植となるために、患者さんの肉体的負担が増えてしまうという欠点がありますが、長期的なインプラントの予後には大きなメリットがある方法です。歯科医師の立場から考えても、患者さんの苦痛が少ない術式を選択したいですから、移植に代わるものとして人工粘膜を用いる方法も考案されています。
付着歯肉が少ないときには歯肉の移動術や移植術を伴いますので、単純な二次手術よりも麻酔の量や処置時間は多くなります。一方、二次手術が簡単なものであれば翌週には型取り(印象採得)ができます。これは、縫合糸を必要とせずに二次手術が完成した場合です。二次手術で縫合が必要だった場合は、歯肉の安定をさらに待つために数週問必要することがあります。二次手術での患者さんの苦痛は、年々軽減される傾向にあります。以前は1回法のインプラントの大きな長所として二次手術が不要であることがあげられていました。しかし現在では二次手術が必要な2回法を選択しても術後の腫れや痛みを訴える患者さんが非常に少ないために、1回法、2回法の選択基準は患者さんの苦痛を主眼としたものからより確実性の高いもの、という観点に変わってきているようです。

インプラントの治療期間・治療回数は?

・骨がしっかりとある症例では、3~4ヶ月で型をとる(印象採得といいます)ことができるでしょう。
・本数が多くて咬み合わせのチェックを慎重にすべき症例や、追加となる処置がある場合は治療回数は増えることになります。

・骨がしっかりとある症例のときは
推奨される治療期間は各メーカーで異なるようですが、インプラントと骨との生物学的な結合は、インプラント埋人術を行った日から始まります。埋人した時点では、骨に対してインプラントのフィクスチャーをねじ込むことによって得られる物理的な力によって保持されているに過ぎません。しかしながら、この骨を圧迫しながら得られる物理的な保持力は徐々に緩んで行きます。その代わりとしてインプラントが接している骨の表面にある、骨をつくる細胞(骨芽細胞)の働きによって骨がインプラント表面と定着(インテグレーション)してきます。この保持力が物理的なものから骨との生物学的な結合に変わって行くのがインプラント埋入術から6週間だという実験結果があります。骨がしっかりとある症例でもしっかり骨とくっつく、3~4ヶ月で型をとる(印象採得といいます)ことができるでしょう。

・インプラントの治療回数は
インプラント埋人術を行った日からの日程をで説明いたします。これは現在最もシェアが多いと思われる2回法、ツーピースタイプのインプラントを例にとりました。1回法のインプラントを使用した場合は、二次手術は不要となることが基本です。ワンピースタイプのインプラントを用いた場合も、二次手術が同じように不要となりますが、型取り(印象採得)についても1回で終えることができます。消毒・確認については行わない場合があります。症例によってその必要性が判断されるものとお考えください。仮歯を入れてみるステップも、省略されることもあるようですが、患者さんが感じる舌触りや見た目の調整などが満足いただけるまで終わらないこともあります。これが最短に近い日程です。しかしながら本数が多くて咬み合わせのチェックを慎重にすべき症例や、前述した追加となる処置がある場合は治療回数は増えることになります。また、完成後の歯磨きのしやすさを考えて歯肉への処置も行われることがあります。

安全な治療法を選ぶ基準は?

・自分の症例が簡単なものなのか難易度の高い症例なのかをよく把握する必要があります。

・自分の症例をよく把握する

まず、自分の症例が簡単なものなのか難易度の高い症例なのかをよく把握する必要があります。簡単な症例で、失った歯の本数が1~3本程度でしたら、インプラントの安全性は非常に高いでしょう。

・簡単な症例というのは
インプラントを埋入する場所の骨が厚みと高さが十分にある場合です。個人差が非常に大きいために単純にはいえないのですが、例えば、歯を失った原因が単に虫歯を放置して抜歯せざるをえなくなった場合、先天的に歯の欠損している場合などがこれに相当します。逆に歯周病で歯が揺れてきたために抜歯に至った場合などは、骨が大きく吸収されてしまっていることがあるために難症例となってしまいます。骨の高さという観点からすれば、上顎では上顎洞という空洞までの距離が、下顎では下顎管という太い神経・血管が通っている場所までの距離が問題となります。どの歯科医院でも、この2つは常に問題となるところですので、正確に診断していただけると思います。

・難しい症例というのは
難症例とされるものは、当然ながら成功率は簡単な症例よりも若干劣ることになります。それでも入れ歯やブリッジなど、他の方法よりもインプラントが有効な症例であることが大前提ですので、治療を諦めてしまう必要はないでしょう。 以上のことをふまえ、自分の症例がどのレベルの治療内容かをおおよそ把握する必要があります。

・治療に要する期間は
以前よりも治療に要する期間は短くなってきていますが、安全性を考えるならば担当医の提示した期間や手順を守ることが必要です。どの患者さんも、短い時間、少ない通院回数で完成することを希望するものですが、体が治癒するにはそれなりの時間が必要ですので、ご理解いただくことが必要です。医院を選ぶ場合でも、通院が可能な距離をよく考える必要があります。遠方の医院を選ばれる患者さんもおられますが、治療途中で中断となることは大きなリスクを抱えることになります。

・インプラントの本数は
インプラントの本数は、以前は1本の欠損に対して1本のインプラントを使うのが主流となっていましたが、徐々に少ない本数でも支えられることがわかってきました。 安全な方法を選ぶためにはベストの本数を担当医に伺ってください。

CT写真
CT写真があることでインプラント埋入術の安全性は、飛躍的に上昇します。最近は、CT撮影が可能な医院も増えましたが、他の医院からの依頼で撮影できるCT専門医院もありますので、必要な場合は是非撮影してください。安全な治療法を選ぶことは、非常に大事なことはいうまでもないでしょう。ですから、治療費用の多寡だけで治療法を決定してしまうのは危険です。また、インプラント体が定着しなかった場合の救済方法があるかどうかも担当医に質問してみてください。