洗口液とフッ素

歯周病予防に効く洗口液の選び方は?

歯周病予防を目的としていろいろな種類の洗口液が売られていますが、洗口液の効果とその選び方について教えてください。

 

殺菌剤の入った「医薬部外品」の洗口液がおすすめです。

洗口液にはプラークの生育を抑える効果があり、ブラッシング後の使用によってその主な効果が期待されます。市販の洗口液には、有効成分として殺菌剤が入っているもの(医薬品医療器機等法上の分類で「医薬部外品」)と入っていないもの(同法上の分類で「イヒ粧品」)があります。それらの殺菌剤には正(十)に荷電した塩化セチルピリジニウム(CPC)のほかに電荷を帯びていないエッセンシャルオイル(精油)イソプロピルメチルフェノール(IPMP)などが使われています。歯科医院専売の洗口液には、欧米の臨床研究でプラーク付着抑制効果が他の殺菌剤より高いことが示された正(十)に電荷したグルコン酸クロルヘキシジン(CHG)入りのものがありますが、副作用を防止するため、日本では極端に低濃度のものしか販売されていません。

前述のCPCやエッセンシャルオイル入りの洗口液は、臨床研究でプラーク付着や歯肉炎の抑制効果が報告されており、IPMP入りの洗口液もプラークへの浸透性から、CPCと同等あるいはそれ以上の効果が期待されるため、これらの医薬部外品の洗口液を選択するほうがよいと思われます。また、アルコール入りの洗口液については、殺菌効果が期待できる濃度ではないため、他の洗口液との殺菌効果に大差はないと考えられます。

歯磨剤を使用した後に正(十)に荷電した殺菌剤を含む洗口液を使用する場合、負(-)に荷電した歯磨剤の成分で殺菌効果を弱める可能性が指摘されていることから、歯磨剤使用後の洗口液の使用に際しては注意が必要です。

 

ロ臭予防の洗口液の成分って?

口臭予防のための洗口液には、どんな成分が含まれているのでしょうか?

口腔細菌の成育を抑制したり、口臭自体を隠す成分などが入っています。

口臭予防をうたった洗口液は、口臭の主な原因物質である揮発性硫黄化合物(VSC)を抑えるためにさまざまな成分を入れて作られています。

クロルヘキシジン(CHX)塩化セチルピリジニウム(CPC)などの抗菌薬は、VSCを産生する口腔細菌の成育を抑制します。ただし、CHXは、アナフィラキシーショックの例があったことから、日本においては口腔細菌の成育抑制に有効な濃度以下に調整されています(原液濃度0.05%以下)。

亜鉛などの金属イオンは、硫黄と結合することによって、非揮発性の硫黄化合物を形成し、VSCを産生させないようにするはたらきがあります。

亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素などの酸化剤は、硫黄含有アミノ酸からVSCが産生されるのを抑える作用があります。

ペパーミントやスペアミントなどの香料は、口臭自体をマスキングする効果があります。これらの成分が配合された洗口液は、短期間および長期間における研究で口臭抑制効果が認められています。

有効成分が配合された洗口液は、一時的に口臭を抑えるのに適していますが、口臭予防の基本はあくまでも口腔清掃による口腔細菌のコントロールです。機械的な清掃が難しい場合は、洗口液での洗口でその効果に期待することもできるでしょう。また、洗口液は、磨き残しの口腔細菌が徐々に増殖して口臭が強くなる傾向かおる昼食前や夕食前の時間帯に使用するのも、有効な使い方の一つと思われます。

洗口液のエッセンシャルオイルの効果について知りたい?

洗口液にはエッセンシャルオイルを含むものがありますが、洗口液に含まれるエッセンシャルオイルには、どのような効果があるのでしょうか?

プラーク付着抑制効果や歯肉炎抑制効果があるとされています.

エッセンシャルオイル(精油)とは、植物の樹皮や花、葉、果皮などから抽出、精製された成分で、アロマテラピーなどに用いられることで知られていますが、洗口液の中にはこのエッセンシャルオイルを有効成分として含むものがあります

エッセンシャルオイルは非イオン性のため、負(-)に帯電しているバイオフィルムの表面に留まらず、短時間でバイオフィルム内に浸透するとされています。また、広く抗菌作用を及ぼし、グラム陽性菌やグラム陰性菌だけでなく、カンジダ菌や一部のウイルスにも有効であるとの報告もあります。

日常のセルフケアにおいて物理(機械)的な清掃の補助として使用することで、プラーク付着抑制、歯肉炎抑制作用があり、特に清掃の困難な歯の隣接面において効果的であることが示されています。

クロルヘキシジン(CHX)含有洗口液と比べて、長期間使用しても歯の着色や歯石形成が有意に少ないと報告されています。刺激が少ないアルコールフリーの製品もでていますので、患者さんの口腔内状況や用途、好みに応じて選択するとよいでしょう。

洗口液は使ったほうがよい?

「歯磨きに加えて、洗口液を使用した方がいいですか?」と聞かれて困りました。どう答えたらいいですか?

 

口腔の状況や求める予防効果に応じてアドバイスしましょう!

それぞれの洗口液の効能を理解したうえで、その効果を期待するならば、答えぱYES”です。

しかし、質問の意図が、「洗口液を使わないでブラッシングだけでは不十分か」ということであれば、口腔伏態によっては「そんなことはありませんよ。今のブラッシング習慣だけでもむし歯/歯周病を予防できています」という対応でよい場合もあるでしょう。答えは口腔の状況によります。

たとえば、歯列矯正装置や補綴物の装着でプラークが停滞しやすい、歯根が露出している、歯の脱灰部位が多い、口腔乾燥症があるなどのう蝕リスクの高い方に対しては、ブラッシングに加えてう蝕予防効果のあるフッ化物洗口液の使用が推奨されています。フッ化物洗口液も、薬局やドラッグストアでOTC医薬品として販売される製品が出てきたことによって、より購入しやすくなりつつあります。

洗口液の知識をもとに、必要性や遂行能力など、それぞれの口腔の状況に応じて、アドバイスしましょう。

 

フッ化物塗布とフッ化物洗口は併用すべき?

「学校でフツ化物洗口が始まることになりました。私は歯科医院で定期的にフツ素を塗ってもらっているので、フツ化物洗口をする必要はありませんか?」と聞かれました。どう答えればよいでしょうか?

学校でのフッ化物洗口も行うことをおすすめしましょう。

フッ化物の応用は、有効なう蝕予防手段であり、その方法もいろいろあります。しかし、「1種類の方法だけでう蝕を完全に予防できる」というものはありません。そこでフッ化物のう蝕予防効果を向上させるために、いくつかの方法の組み合わせが推奨されます。これまでにフッ化物応用法の組み合わせによるう蝕予防効果の向上が報告されています。

一方で、各応用法の組み合わせによる「フッ化物の過剰摂取」を気にされる方がいますが、日本では水道水へのフッ化物添加などの全身応用が実施されていないため、フッ化物局所応用を組み合わせて実施しても問題はありません(厚生労働省ガイドライン)。

このような理由から、フッ化物応用によって受けられるう蝕予防効果を最大にするために、いくつかの局所応用法を組み合わせて利用するように指導しましょう。つまり歯科医院でフッ化物を塗布するだけでなく、学校でのフッ化物洗口も行うよう勧めてください。また、もし使っていなければ、フッ化物配合歯磨剤の使用もアドバイスしてください。

フッ化物の人体への影響は?

フッ化物は、人体への害があると言われていますが、どのような影響がわかっているのかを教えてください。

急性中毒と慢性中毒がありますが、適正に使用すれば問題ありません。

フッ化物の人体への影響には、大量過剰摂取による急性中毒と慢性的な過剰摂取による慢性中毒があります。急性中毒の症状としては、吐気、嘔吐、腹痛などの胃腸症状が中心となります。慢性中毒としては、歯のフッ素症や骨フッ素症があります。しかし、わが国の2015年度の上水道の普及率は97.9%で、飲料水のフッ素濃度は0.8 mg/L以下と規定されているため、飲料水による慢性中毒はほぼみられません。

フッ化物のう蝕予防法には、全身応用法と局所応用法がありますが、現在、わが国で行われているのはすべて局所応用法です。局所応用法には、フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口およびフッ化物配合歯磨剤の使用があり、フッ化物歯面塗布がもっとも高濃度のフッ素を使用します。フッ化物の急性中毒量はヽ2 mg F/kgや5 mg F/kg)とされています。体重20 kgの小児の場合、歯面塗布に用いられる2%NaF塗布液を11.1mL摂取すると5 mg F/kgとなりますが、通常、フッ化物歯面塗布に使用される量は2mL以内なので、通常の使用において急性中毒を起こすことはありません。

また、水道水フロリデーションなどのフッ化物の応用により、先天異常や骨肉腫をはじめとするがんを誘発するという報告がありましたが、これまでの研究において、フッ化物応用におけるフッ化物の摂取と先天異常やがんとの関連性は認められていません

 フッ化物の応用は非常に有効なう蝕予防法です。適正に使用している限り、特に問題となることはありません。

フッ化物には象牙質う蝕の予防効果もある?

フッ化物は、エナメル質に対しては、フルオロアパタイトを作ることで耐酸性を向上させてう蝕を予防すると理解していますが、露出根面の象牙質に対しては、う蝕予防効果はあるのでしょうか?

フッ化物は、象牙質に対してもう蝕予防効果が期待されます。

象牙質とエナメル質はともに歯を構成する硬組織で、無機物、有機物および水分から構成されます。象牙質は、エナメル質と比べ有機物と水分の比率が高いという特徴を持っていますが、構成成分の主体をなすのは無機質です。象牙質の結晶粒は、エナメル質よりもサイズが小さいため溶けやすく、結果、耐酸性は象牙質のほうが低くなります。粉砂糖が氷砂糖よりも粒が小さく溶けやすいことと同じと考えればわかると思います。

フッ化物は、根面の象牙質に対してもう蝕予防効果があることが、多くの研究で報告されています。その機序に関しては、歯根象牙質試料を用いた研究において、フッ化物配合歯磨剤や酸性フッ素リン酸ゲルの作用でフルオロアパタイトの生成が起こり、ミネラルの喪失や象牙質の表面硬度の低下を抑制できると、これまでに報告されています。象牙質の構成成分である無機質も、基本的にはハイドロキシアパタイトから成るため、エナメル質に対する場合と同様の機序がはたらくと考えられます。高齢者の露出した根面の象牙質にフッ化物を応用して、象牙質の耐酸性を向上させましょう。