歯磨き粉

歯磨剤の発泡剤がブラッシング時間に影響する?

「発泡剤の入った歯磨剤を使うとブラッシング時間が短くなる」と聞いたのですが、本当ですか?

発泡剤の泡立ちでブラッシング時間で短くなることはありません。

発泡剤の泡立ちのためにプラーク除去が不十分なままブラッシングを終了してしまうという可能性も考えられますが、本当でしょうか?

ヒトを対象とした実験によれば、そのような事実は認められませんでした。たしかに、以前の歯磨剤はブラッシングするとかなり泡立ちましたが、現代の発泡剤の発泡性は低く抑えられ、歯磨剤への配合量も少ないため、歯磨剤の泡立ちが原因でブラッシング時間か短縮することはありません。

発泡剤の機能は、口腔内に歯磨剤の成分を分散させて、その成分の機能を発揮しやすくし、さらにブラッシング中の液ダレを防ぐなど快適に使用できることです。この機能のおかけで、たとえば、フッ化物を口腔内(歯と粘膜表面やプラーク中など)に行き渡らせることができ、再石灰化現象が長時間促進しやすくなります

さらに、発泡剤が配合されていることにより、歯磨剤の使用量が少なくても効果的にプラークを除去でき、プラークの再付着も抑えられることがわかっています

歯磨剤の清掃剤(研磨剤)が歯を削る?

「歯磨き剤の研磨剤が歯を削ると聞いたから、使いたくない」と言われてしまいました。実際、どうなのでしょうか?

健康障害が出るほど歯面が削られることはありません。

歯磨剤中の清掃剤(研磨剤)には、リン酸水素カルシウム、水酸化アルミニウム、無水ケイ酸などが用いられています。実験してみれば、たしかに清掃剤は歯面を削りますが。一生涯使用しても健康障害が出るほど削れることはありません。それよりも、歯ブラシの毛の硬さやブラッシング圧のほうが研磨性に影響します。

歯磨剤の歯面研磨性は、RDA(Radioactive Dentin Abrasion)という象牙質研磨力の評価値によって、世界的には250以下と基準化されており、日本では150以下と世界基準より低く設定されています。ただしRDAの測定は、決められた歯ブラシを用いて基準化された力でどのくらい象牙質が削られるかを示すものです。実際のブラッシングにおいては、硬い毛の歯ブラシで強い力で磨いたり、清掃剤の粒子が硬かったりすると、象牙質のダメージは大きくなります。

日本で販売されている歯磨剤の清掃剤の配合割合は、ペーストタイプの歯磨剤では10~60%ですが、現在の製品の配合量は以前より少なく、研磨性が低く抑えられています。清掃剤無配合のシェルタイプや泡タイプ、あるいは低研磨性のソフトペーストタイプの歯磨剤は、歯根露出や知覚過敏などで歯面への刺激を抑えたい患者さんに利用できます。

嫌がる子には歯磨剤を使わなくてもOK?

「子どもが歯磨き剤を嫌がるので、使わなくても平気でしょうか?」と聞かれました。どのように行わばよいでしょうか?

フッ化物のう蝕予防効果を期待して、使うようにしましょう。

フッ化物配合歯磨剤はう蝕予防に有効ですから、ぜひ使っていただくようにしてください。

国内外の50年以上におよぶ多くの研究結果から、フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果は疑う余地がありません。「科学的根拠に基づく医療」を目指す国際活動「コクラン共同計画」の系統的総説において、フッ化物配合歯磨剤は永久歯う蝕の予防効果があり、1日2回以上の使用によって予防効果が高まること、フッ化物濃度は少なくとも1,000ppmでなければ効果が期待できないことなどが報告されています。

また近年、複数の研究結果によって、乳歯のう蝕予防効果も示されています。特に、フッ化物濃度は1,000 ppm以上であれば効果が期待できるとされる結論が優勢です。

フッ化物配合歯磨剤を効果的に使うポイントは以下のとおりです。①年齢に合わせた量を使う(3~6歳未満は5mm、6~12歳は10mmが目安)。②ブラッシング後のすすぎは1回を目安として口腔内のフッ化物停滞時間を延ばす。③使用後の飲食を控え、口腔内のフッ化物の維持を図る。

子どもが歯磨剤を嫌がる主な理由として、歯磨剤の味や刺激が知られています。味や刺激の強い大人用の歯磨剤を共用するのは避けて、子ども用を使用するほうがよいでしょう。歯磨剤が使えない場合には、歯科医院などでのフッ化物歯面塗布や、フッ化物洗口(4歳児以降)を勧めましょう。

泡タイプや液体タイプの歯磨剤を使ったブラッシングののコツは?

歯磨剤の形状にはいろいろありますが、最近では特に、泡(フォーム)タイプや液体タイプの歯磨剤について、聞かれることがあります。これらの効果や使い方の違いを、どのように使用すればよいでしょうか?

それぞれの利点と欠点を学び、目的に合わせた使い方をしましょう!

泡(フォーム)タイプや液体タイプの歯磨剤は、一般的な練歯磨剤よりも分散性が高く、口腔内のすみずみにまですばやく行き渡りやすいと考えられています。

泡タイプの利点は、少量で使えることです。うがいが苦手な低年齢児(1~3歳)や高齢者に対しても使用しやすく、う蝕予防に効果的であると言われています。また、エナメル質の主成分であるハイドロキシアパタイトヘのフッ化物イオンの吸着速度を上昇させ、耐酸性を向上させることから、う蝕予防効果の高まることが実験的に証明されています。

液体タイプは、歯磨剤で洗口してからブラッシングするため、歯ブラシだけでは磨きにくい歯間部のプラークコントロールにも効果があるでしょう。また、ブラッシング後に水ですすぐ必要がないため、災害時など水が貴重なときにも使いやすく重宝されます。

注意が必要なのは、どちらのタイプにも清掃剤(研磨剤)が入っていないことです。過剰なブラッシングによる知覚過敏の発症を抑制できるという利点もありますが、外来性の色素が着色しやすくなるという欠点もあります。また、ブラッシングの効果を高めるためには、歯磨剤だけに頼らず、歯ブラシによる機械的な清掃が必須であることも、あわせて学習すべきでしょう。

歯科専売品と市販品、何が違う?

歯ブラシや歯磨剤にはいろいろな値段のものがありますが、何か違うのですか?また、選ぶポイントは何でしょうか?

材科や成分に大きな違いはありませんが、歯科専売品には指導が必要です。

歯ブラシについては、年齢と器用さ、口のサイズに合った、ナイロン製かポリエステル製で、径が0.2mm以下の毛先を丸めた柔らかいものが推奨されています。歯磨剤に関しても、現在はおおむね90%の製品に約1,000~1,500ppmのフッ化物が配合されていますから、いずれも価格にあまり関係なく、ほとんどどれを選んでもよいということになります。ヒトを対象とした多くの研究では、フッ化物の濃度が低いと予防効果は下がるため、歯のフッ素症のリスクがある低年齢児では、濃度よりむしろ使用量でコントロールするよう指導するのが望ましいとされています。

歯科専売品は、基本的にブラッシング指導を前提とした歯ブラシ、歯磨剤です。現在のブラッシング指導は、時間をかけてすみずみまで磨く、フッ化物配合歯磨剤の最大の効果を発揮させるためにブラッシング後の洗口は少量の水で1回程度にしてフッ化物を残留させるといったものです。こうした指導に適するのは、細かいところまで磨ける小さめの植毛部の歯ブラシ、泡立ちが少なく味や香りの薄い歯磨剤になるわけです。

一方、一般に売られている製品は、歯科の指導を受けていない大でもある程度の効果が発揮できるように設計されています。そのような人の口腔清掃力を考えると、短時間で大まかに効率良くプラーク除去ができるやや大きい植毛部の歯ブラシ、フッ化物濃度は同じでも発泡性が高い歯磨剤のほうが、口腔全体に早く拡散すると考えられます。したがって、指導なしに歯科専売品を渡すことは、かえって不利になりかねません。

歯周病菌に効く天然由来成分ってどんなもの?

「健康食品のお店で、歯周病菌によい歯磨き剤を勧められて、ずっと使っているけど、実際効果はどうなのでしょうか?」どんな成分が入っていたら歯周病菌に効くと言えるのでしょうか?

現状では天然由来成分が配合された歯磨剤の実際の効果は未知数です。

健康食品を扱う店舗で販売されている歯磨剤は、天然由来成分の配合や、防腐剤や着色料の不使用などをうたったものが多い傾向にあると思います。

この質問では、歯周病菌によいとされる歯磨剤に、どのような成分が入っているかまではわかりませんので、歯周病菌の抑制・殺菌効果を期待して歯磨剤に配合されている天然由来成分について、お答えしたいと思います。

茶カテキンは、細菌の細胞壁の合成を阻害したり、過酸化水素の産生や細胞質酵素の抑制で細胞膜に不可逆の損傷を与えることによって、歯周病原性細菌やバイオフィルムの形成を抑制することがわかっています。また、歯周病原性細菌の出す有害な酵素を抑制することで、歯周病の進行を予防できるのではないかと考えられています。

その他の天然由来成分としては、抗菌作用を期待して、ココア・ポリフェノールプロポリスを歯磨剤に添加しているものもあるようです。しかし、いずれの成分を配合した歯磨剤についても、臨床研究でのエビデンスが確立しておらず、実際の効果については未知数であり、あくまで補助的なものと考えた方がいいでしょう。

歯周病の予防には、歯磨剤の成分にこだわるよりも、ブラッシングによるプラーク除去と歯肉のマッサージを学習した方が合理的であると思われます。