「歯磨きも食生活も気をつけているのに、むし歯をくりかえすのはなぜですか?」と聞かれました。どう答えれば納得してもらえるのでしょうか?
う蝕になりやすい口腔環境が人それぞれ異なることを伝えましょう。
口腔内に定着する菌の種類と分布割合は、う蝕感受性(う蝕のなりやすさ)に大きく影響することが知られています。乳酸悍菌は糖質から有機酸を作る力が非常に高く、小高裂溝部う蝕の発症や象牙質う蝕の進行に関与します。
また、ミュータンスレンサ球菌は砂糖(シヨ糖)から有機酸だけでなく、プラークの歯面への付着を強固にする粘性の多糖体を産生し、小高裂溝部に加えて平滑面にもう蝕を生じさせます。つまり、ミュータンスレンサ球菌や乳酸悍菌の菌数が多い口腔内は、う蝕を繰り返しやすい環境にあると言えます。
歯ブラシやデンタルフロスでセルフケアを行った直後は、ミュータンスレンサ球菌や乳酸悍菌の菌数が一時的に減少しますが、口腔内に定着した菌の種類や分布割合を変化させるには至りません。また、毎日の食事から糖質を完全に除くことも困難です。さらに、ハイドロキシアパタイトの結晶の緻密さや歯面が口腔内に露出した後、数年をかけて得られる酸への抵抗性、唾液の流出量や酸緩衝能など、ブラッシングと食生活の改善ではコントロールできない因子も、う蝕感受性に大きく影響します。
口腔清掃の徹底と食生活習慣の改善は多くの症例で有効ですが、う蝕を再発する傾向が高い場合は、う蝕リスクを多角的に評価したうえで、患者さんによる毎日のセルフケアとともに、歯科医院での定期的な予防処置が重要となります。
日本口腔インプラント学会認定専門医 みしま歯科医院 三嶋直之