最近、口の中が渇くので、いつも飴をなめています。
つねにバッグのなかに飴を入れているというかたは、ことに年配のご婦人に多いように思いますね。なめると唾液腺が刺激され唾液が出て、お口のなかがうるおうんです。何種類も小袋に入れて携帯して、お友達にも「なめる?」なんてすすめているのを見かけます。たしかに、口がネバついてしゃべりにくかったり、のどがいがらっぽいときに飴をなめると楽になりますよね。でもお口の渇きやすいかたが、甘い飴を始終なめているというのは、二重の意味で困った生活習慣なんですよ。
まずひとつは、すごくむし歯になりやすいんです。お口のなかで悪さをするむし歯菌は、糖を栄養源として生きています。ですから、砂糖が含まれている飴を始終なめているということは、むし歯菌にエサを与え続けているということ。しかも口のなかは温かく繁殖しやすい。まさにパラダイスです。むし歯菌は糖をたらふく食べて酸を作り続けます。その酸が歯を溶かし、むし歯ができてしまうのです。
もうひとつの困ったことは、唾液の分泌が十分でないということ。唾液っていうのは、本来お口のなかを洗い流してきれいにしたり、酸性になった口のなかを中和したり、カルシウムを運んできて溶けかかった歯を修復してくれる働きがあります。その唾液が潤沢に分泌していないとなると、当然こうした唾液の機能は十分には働いてくれないわけです。むし歯になりやすくて、唾液による修復もきかないということになると、お口の健康にとって、これは非常に由々しき事態です。
そこで、お口の渇きが気になるときは、砂糖の入った飴でなく、砂糖不使用のガムを噛むことをおすすめします。噛むと唾液がよく出るのです。キシリトールや歯の修復に役立つ成分の入ったさまざまなガムが販売されています。
また、からだに水分が足りないときもお口のなかが渇きますので、お水やお茶をこまめに飲むのもよいでしようね。お口の渇きの原因はさまざま。改善できることもあります。気になる症状があったら、歯科医院でご相談ください。
娘(8ヶ月)は野菜ジュースが大好き。水代わりに飲ませています。
赤ちゃんの水分補給、ときに暑い時期には気を使いますよね。離乳食がはじまった頃は味の好みも出てくるころでしょう。お風呂上りの甘味のある野菜ジュース、さぞかしおいしいでしょうね。
ただね、気がかりなことがあるんです。ひとつはむし歯です。というのも、野菜ジュースとはいうけれど、そのなかに砂糖(シヨ糖)が入っているものがけっこうあるんですよ。日ごろ娘さんに飲ませているジュースの裏や横に「栄養成分表示」つてあるでしょう? 小さい字ですがぜひ読んでみてください。「ショ糖」って書いてありませんか?ショ糖というのは砂糖の主成分のこと。始終飲ませていると、とくに長い時間をかけてチョビチョビ飲んでいると、口のなかのむし歯菌に栄養を与え続けることになりかねないんです。できれば、時間をかけずに飲めるといいんですけど。
もうひとつ心配なのが酸蝕です。その幼児向けの野菜ジュースには果物が入っているようですが、原材料にレモン汁とかクエン酸などの酸味も加えられてはいませんか? 野菜ジュースつて、おいしく飲めるようにと、酸味のある果汁を加えたり、日持ちをよくするために酸味が加えられていることが多いんです。
じつは「酸」つて、歯に触れると歯を溶かしちゃう性質があります。マグや哺乳びんでチョビチョビと飲むと、ジュースの酸が吸い口から生えたての前歯に長い時間集中的にかかってしまい、歯が溶けやすいんです。ことに、赤ちゃんの生えたての歯はやわらかく、むし歯にも、ジュースの酸にも、とっても弱いんです。気がかりですね。
ジュースは全面的にダメとは言いません。でも大事な赤ちゃんの歯を守るには、飲む時間を「お昼寝から起きたら」とか「おやつに」とか決めて、タラタラ飲ませないようにしたいものです。それからもちろん、寝る前の歯みがきにはフツ素(フツ化物)を使ってくださいね。
寝酒が好き。アルコールでむし歯菌も死ぬはずだ。歯磨きしないで寝ちゃおうっと。
結論からいいますと、残念ながらお酒でむし歯菌を殺菌することはできません。
このかたは寝酒にブランデーをたしなまれているようですが、ブランデーのアルコール度数は40度から50度くらい。この程度では、殺菌効果は期待できません。引火するほどアルコール度数の高いお酒をストレートで飲んだとしても、プラークを除去することはできないでしょう。それに、アルコール度数が極端に高いお酒を毎晩ストレートで飲んでいたら、喉や胃腸の粘膜を傷つけてしまいますよ。
プラークは、排水溝のなかのヌメヌメとした汚れのようなもの。そう簡単には取り除けません。放っておくとバイオフィルムという粘着力の強い膜を作り出し、そのなかでさらに細菌が繁殖します。このバイオフィルムの内側には、アルコールも浸透しません。そして、その排泄物である酸が歯を溶かし、むし歯を作ってしまうのです。おつまみを食べていないから大丈夫? そんなことはありません。お酒には糖分が含まれているものも多いのです。むし歯菌は糖をエサにして歯を溶かす酸を作り出しますから、アルコールの殺菌効果を期待して歯をみがかないで寝てしまうのは、むし歯菌にエサを与えて快適な環境を提供してやっているようなものです。
寝ている間は、細菌を洗い流してくれる唾液がほとんど出ないので、お口のなかで細菌が繁殖しやすくなります。しかもお酒を飲んで寝ると体が脱水傾向になり唾液はより出にくくなります。また、ワイン、梅酒、チューハイなど酸性のお酒であれば、酸蝕歯(酸性の飲食物によって歯が溶ける)も心配です。
プラークを取り除くには、歯ブラシでていねいにかき出すのが一番効果的です。歯ブラシとフロスを使って、お口のなかのむし歯菌を追い出しましょう。
お酒を飲んだあとは歯みがきが面倒になってしまうかたも多いかもしれませんが、健康なお口を保つため、寝る前にプラークをしっかり除去することを習慣づけましよう。
プラークはむし歯、歯周病、口臭の元凶。口臭を防いで、朝からさわやかな笑顔で。職場でも周囲の視線が変わりますよ。
部活で飲むのは大好きなコーラ。2Lボトルを毎日カラにしている。だけど最近歯がしみるんだよね・・・。
これはですね、私たちが俗に「部活う蝕」と呼んでいるものの典型的なケースですね。
これからの季節、熱中症対策は欠かせませんね。おっしゃるとおり運動中はとくにこまめな水分補給が重要です。ただし毎日飲んでいるのが「コーラ」だっていうのが落とし穴です。コーラはpH値がとても低く「酸性」なんですよ。歯のカルシウムは酸に触れると化学反応を起こして(理科の授業に出てきましたよね)、溶けます。ひどい場合はエナメル質が減って薄くなり壊れやすくなります。こうした歯を「酸蝕症」と呼んでいます・
なにがいちばん歯に悪いかというと、それは「こまめにちよこちよこ」飲むということ。歯と酸が長い時間触れ続けることになりますから。本当なら、口のなかの酸は唾液が洗い流し、ある程度まで中和してくれます。でも運動中はハアハアと口で息をするし、汗をかいてのどがカラカラでしよう? ツバを吐こうとしても、ネトネトした泡みたいな唾液しか出ない。これでは唾液の働きはあまり期待できません。たいへんリスキーな状態なんです。
歯が溶けエナメル質が薄くなれば当然むし歯になりやすい。溶けて軟らかくなった歯は練習を頑張って食いしばると削れて減りやすい。そのうえ砂糖がずっと残っているとむし歯菌は大喜び。ひと夏過ぎる頃にはむし歯だらけになってしまうんじやないかと実に心配です。
電解質の補給に役立つスポーツドリンクも、コーラほどではありませんが全般的に酸性。日常的に飲むなら、あいだにひと口、水や氷を含むようにすると酸が減って歯への影響を少なくできます。コーラは、できれば練習後のリラックスタイムに飲んでもらいたいですねえ。理想としては一気飲み。で水をひと口。酸の影響を少なくできます。
ビンで売られていた頃は、栓を開けたら一気に飲んでいたものですが。今はペットボトルで炭酸が抜けにくい分、長くチビチビ飲みやすいんですよね……。
歯にも、からだにもいいから運転中はゼロカロリーのコーラ。
タクシードライバーのみなさん、お仕事お疲れさまです。運転中は緊張の連続。お客さんへの気配りも大事で気の抜けないお仕事ですもの。大好きなコーラでも飲んで、スッキリ爽快な気分で運転していただきたいな、って私も思います。
嗜好品って、本当に大切ですよね。私たちがこころ豊かにほがらかに生きていくために、とっても重要なものですよ。こればっかりは理屈抜きです。
「からだにいい」というゼロカロリーコーラ。糖の摂り過ぎが気になる健康志向のかたに大人気です。砂糖が入ってないから、むし歯菌のエサになる心配もない。そこもすごくいいですね。
ただ、歯科医師の立場からは、ひとつ気になることがあります。それは歯の「酸蝕症」なんです。酸蝕症というのは、酸性度の強い(酸っぱい)飲み物や食べ物を過剰に食べたときに、その酸に触れた歯が溶けてしまう、という病気なんです。
エナメル質が薄くなる分、歯が弱くなって、むし歯にもなりやすくなります。ふつうの飲食のなかで摂る酸なら、唾液が洗い流して修繕してくれますから心配いりません。でも酸性の強いものを習慣的に長時間飲食していると、唾液の働きが追いつかなくて、歯が溶けてしまうんです。
いちばん気になるのは、信号ごとにチョビチョビ飲んでいるってこと。ゼロカロリーとはいえコーラですから、けっこう酸性度が高いんです。だから、運転手さんの歯は、毎日長い時間、酸を浴び続けているんじやないかなあ、って心配です。
ただ、私だって歯に悪いと知りつつ、甘いものをちょっと食べてホツと一息してますもの。コーラの気分転換が安全運転の源になっているのかもしれませんよね。そこで、飲みかたを変えたらいかがでしょう。
休憩のときに冷えたのをダーツと一気に飲んで、スキーツと気分転換するんです。こうすると、歯が酸に触れる時間を短くできます。上手に飲んで、歯を守りつつリフレッシュを楽しんでくださいね。
上下の歯ってつねに噛んでるものでしょ?
上下の歯を、つねにガチッと噛んでいる? それはかなりあごが疲れるでしょう。それに、歯や歯槽骨への負担も大きいと思いますよ。歯がグッと噛み合うのは、本来は食事のときがおもですからね。
力を入れたり緊張したときに一時的にグッと噛むことはあっても、リラックス時には上下の歯は離れて、くちびるは閉じている。これが望ましい状態です。いつもガチッと噛んでいては、歯や歯槽骨、あごの骨が疲労してしまいます。
もちろん、人によって力の強さは違うし、シチュエーションも違えば噛む力は違ってきます。垂直方向の力か水平方向かでも影響は違います。だから「力による被害」といっても、一概には言えません。
ただ始終噛む力が加わるとどんなことが起きがちかというと、まず歯が傷みやすくなる。すると当然ながら詰め物や被せ物も取れやすくなる。ときには歯が折れて抜歯にもなってしまいます。
そのうえ、力によって歯槽骨が減りますから、そのぶん歯周病が進行しやすくなります。そのうえ顎関節も傷みやすい。なかなかやっかいです。
噛むという行為のコントロールは大脳皮質などで行われ、無意識で行っていることがほとんどです。でも日中の噛みしめなら意識できるので、ときどき「リラックスしよう」と気を付ければ防ぐことはできます。ぜひはじめましよう。
日本人は出っ歯が多いので、歯を噛み合わせないとくちびるが閉じにくいという人は多いかもしれません。こういうことは、民族によってだいぶ異なるでしようね。
一方、スマイルが社交の基本である欧米人を見ていると、小さくスマイルするときにくちびるが離れる寸前の状態、これがもっともリラックスし、歯が自然と離れた状態かなあと思います。
くちびるを閉じたまま歯を離しておくことに慣れたいなら、口を閉じて軽くスマイルしてみては? 感覚がつかみやすいし、印象もよくなって一石二鳥ですよ。