Q;塩でのブラッシングは、効果あり?
A:食塩には歯肉の炎症消退作用があると考えられますが、プラーク除去効果は期待できません。歯磨剤を用いたほうがよいでしょう。
塩化ナトリウム(食塩)は身近に存在することもあり、指先につけて歯肉マッサージをしたり、歯ブラシにつけて歯磨剤の代わりに用いる人も多いようです。
食塩は、タンパク質を変性させて組織や血管を引き締める(収れん)作用があるとされています。歯周病の患者さんに、塩化ナトリウムを結晶体のまま、または高濃度水溶液として、あるいは塗り薬(ペースト剤)に添加して使用すると、歯肉の出血や浮腫といった臨床症状が改善するだけでなく、組織学的にも血管のうっ血や白血球の浸潤が減少したとする報告が認められます.また、食塩は歯磨剤の薬効成分にも挙げられており、止血・抗炎症作用を持つトラネキサム酸などとともに、歯周病の予防を目的として歯磨剤に添加されています。
このように、塩化ナトリウムは、歯肉の炎症を消退させる作用があると考えられますが、最近ではその効果を調べた臨床・疫学研究やメタアナリシスなどで統合分析した研究は、ほとんど認められません。
歯磨剤の代わりに歯ブラシに食塩をつけて磨く習慣には注意が必要です。歯磨剤には、プラークなどの歯面沈着物を除去するのを助ける清掃剤(研磨剤)や発泡剤が含まれています。つまり、歯肉に炎症がある場合、歯肉の炎症症状を一時的に緩和させるのには有用と思われますが、プラーク除去の観点では塩で磨く利点は低いと考えられるからです。
市販されている歯磨剤には、歯周病予防を目的として、塩化ナトリウムやトラネキサム酸だけでなく、高い抗炎症作用を示すグリチルリチン酸などが配合されたものがあり、また、ほとんどの歯磨剤にはう蝕予防効果を持つフツ化物が配合されています。う蝕と歯周病の主原因がプラークであること、根面う蝕が歯周病に継発することをふまえると、これらの薬用成分を含む歯磨剤を用いたブラッシングは、塩だけで磨くよりも口腔の健康保持に有効と考えられます。
日本口腔インプラント学会認定専門医 岩見沢市 みしま歯科医院 三嶋直之