お口の都市伝説~からだとお口の健康の関係これ本当!?~

日本は長寿の国だから歯も丈夫で長持ちだ。

結論から申しますと、まったくの間違いです。いい例が、米国と日本の比較です。後期高齢者の残存歯数の平均は、今の米国人は日本人より多いんです。平均寿命は日本人より3~4年も短いというのにね。

米国では学校に歯科健診はないし、会社にも自治体にも(健康診断はおろか)歯科健診はありません。なのに歯は残っている。歳を取ってこの違いは大きいです。奥歯でしっかり噛んで食べられるか、十分に噛めないか、そういう違いです。

このような話があります。バンクーバーの大学病院や自分の歯科医院で診療しているとき、準生活保護を受けているお母さんたちに尋ねたことがあります。要保護の家族には歯科治療のクーポンが当時10万円分ほど支給されていたんですが、その使い道を聞くと、「せっかくだから、まずは子どもの予防に使う」と。

 定期的にクリーニングを受けて予防する、つまり歯は自分たちで予防して守るものだという考え方が文化となって国民に沁みついているんだなあと思いました。

日本の考え方は逆です。自分の健康は学校健診や職場の健診、自治体の検診でチェックしてもらえる。子どもの健康や自分の健康は国に支えてもらえます。それなのに職場や自治体の歯科健診の受診率はとても低い。予防しなくても、悪くなったら国の保険制度で安く治療を受けられ、国に助けてもらえるからでしょう。ただしそのため歯で苦労をし、結果的に多くの歯を失ってしまっている。

日本のこの状況はたいへん残念です。予防をすれば歯を残せると科学的に証明され、世界中で役に立っている予防法があるというのに。残念すぎてため息が出ます。歯の健康を国まかせにしすぎてはいないか、ぜひご一考いただきたいものです。

 医療が充実し日本人の寿命はぐっと延びました。しかし健康寿命はどうでしょうか。若い頃から予防をして歯を守り、人生の最後によく噛んで食べることができれば、体力や気力が充実して日本人の健康寿命はもっと延びるんじやないかなあと私は内心思っているんですよ。

歯の治療と持病の治療は別物でしょ?

なるほど。たしかに歯科医院の問診票には質問項目がいっぱいあります。生活習慣とか、持病とか。書くのもたいへんでしょう。で、これが無駄なんじやないかとお考えですね?

結論から申し上げますと、歯科治療と全身疾患の治療は、関係、大いにありです。歯科医院においでになった患者さんが、自分の全身の状態がどうか、どういう薬を飲んでいるかを歯科医師に伝えることは、ご自分の身を守るためにとても大事です。

たとえば、血液をサラサラにするワーフアリンという薬がありますね。血栓の予防に飲んでいるかた、多いのじゃありませんか? これを歯科医師に申告せず、「たかだか抜歯だ、大丈夫」なんて思ってたらたいへんです。なかなか血が止まらない。止血処置のためには相応の準備をしておく必要があるんです。

骨粗しよう症の患者さんも要注意です。BP剤という骨粗しよう症の治療薬を長く飲んでいる患者さんが不用意に抜歯すると、あごの骨が壊死してしまうことがあります。

糖尿病の患者さんは、免疫が低下するので感染を起こしやすいです。

「歯医者は、歯のことしか知らないだろう」なんて思っていませんか?

私たちは外科も内科も耳鼻咽喉科、皮膚科についても学んでいます。きちんと申告してもらわないと、患者さんの不利益になります。持病についての質問は、必須項目なんですよ。

いちいち書くのがたいへんなら、お薬手帳ってあるでしょう。あれをお持ちください。それか、手帳に貼るお薬のシールだけでも財布のなかに日ごろから入れておいて、受付で「コピーを撮ってください」つて出してください。

ご自分の身を守るため、必ず、必ず、お願いします。

歯周病だと糖尿になるんだって?僕、歯ぐきが腫れているんだけど。血糖値が高いの、このせいかなあ・・・・。

必ず糖尿病になるってわけじやないんだけど、「糖尿病の人は歯周病になりやすい」、そして「歯周病の人は糖尿病になりやすい」。逆もまた真なりで、現在、このことはハッキリと解明されてます。

歯周病が関連する全身疾患はほかにもいろいろあるのですが、歯周病と双方向で関連があるとわかっている全身疾患は、いまのところ糖尿病だけ。糖尿病以外の病気については

「歯周病→全身疾患」という一方通行の関係です。たとえば、歯周病があると早産を起こしやすい。でも、早産の傾向のある人が歯周病になりやすいわけではない。歯周病になると心筋梗塞を起こしやすい。でも心筋梗塞を起こしやすい人が歯周病になりやすいわけじゃない。

それでは、なぜ歯周病と糖尿病の場合は、双方向に悪さをし合うのか。これはぜひ知ってもらいたいところです。歯周病だってことは、慢性的に炎症が口のなかにあるということでしょ?歯周病菌や炎症物質(毒素)の貯蔵庫が常に存在していて、そこからからだに送り込まれていることになる。で、その貯蔵庫から出る炎症物質には、インスリンの働きを低下させる作用があるんだ。それで歯周病になると、血糖値がなかなか下がらなくなってしまうわけです。だから、歯周病になると、糖尿病になりやすいんです。

しかも、糖尿病になっちやうと、からだの抵抗力が落ちてくる。歯周病菌をやっつける力が弱まるので感染しやすくなるわけです。すると炎症物質もじゃんじゃん作られる。つまり糖尿病になると歯周病にもなりやすい。負の連鎖ですよ。悪循環に陥っちゃうわけだよね。

これが片方を放っておくと片方も治りにくいしくみ。薬だけ飲んでりゃバッチリ治るってわけじゃない、っていうことをぜひ知ってもらいたいですね。

親は二人とも早くから総入れ歯。私も歯周病がひどくって。体質の遺伝って怖いわよね~!

たしかに歯周病の場合、遺伝的なリスクも影響しますよ。歯周病って歯周病菌による感染でしよ?だから、からだの抵抗力が強いか弱いかとか、そういう遺伝レベルでの体質の影響っていうのはあるんです。それからね、歯並びって遺伝するでしよ。歯並びが悪いと、歯みがきが難しいから、プラークが口のなかに残りやすいです。

だけど、歯周病の原因って、やっぱり後天的な要素のほうが問題が大きいです。っていうのも、たくさん歯周病菌を持っている人といっしよに暮らしていると、歯周病菌による感染のリスクが高くなるからね。だから、たくさん歯周病菌を持つ親御さんと暮らしてたんで、きっとそれが娘さんにしっかりと受け継がれちやったんだな。旦那さんも感染しちやってるんでしようね。

じつは、歯周病菌の感染って、親子間もそうだけど、夫婦間も問題なんですよ。だから、ご両親ともに歯が悪いっていうのも、なるほど、そうなんだろうなあ、って思っちやうよね。

もう一つ問題なのが生活習慣軟らかくて噛み応えのないものを好んで食べてると(歯が悪いとますますそうなりがち)プラークがつきやすいんですよ。だから、家族の食事が全体的に柔らかめだと、家族中プラークがつきやすいお口になってくる。でもって、ブラッシングの習慣なんかも、家族ってみんな似てるでしょ。それと、喫煙の問題もあるね。家族の誰かが吸ってると周りはタバコの煙を吸うでしょう。昔はあんまりタバコの煙を気にしなかったしね。そうすると家族みんな免疫が低下する。てことは、歯周病になりやすくなるんだよね。

まあだから、どうせ歯医者に通って治療するなら、ご両親みたいに仲良く総入れ歯にならないように、ご夫婦で「私も治療するから、あなたもいっしょに通いましようよ」って、誘ってみたらいいと思うよ。感染症なんだから、夫婦のどちらかが一人で治すより、いっしよに治すほうが合理的だし効果も上がりやすい。ぜひご夫婦で歯医者さんにどうぞ。

口もとが老けてきたのは歳だから仕方がない。

年齢を重ねると歯ぐきが痩せるってよくありますよね。ブラッシングをていねいにしているかたでも、年齢を重ねると、いくらかは歯ぐきが下がってくるものです。歯周病などの病的な問題がなくてもね。

 ブラッシングは、歯や歯ぐきをこすって剌激しますので、毎日朝晩何十年も続けていれば、その影響が多少は出ざるをえないんです。歯が健康そのものでも起こりうることす。

加齢による口もとの見た目の悩みは、人生50年の時代には起こりえなかったでしようね。人生80年になった今だからこその悩みだと思います。いや、最近は、人生100年、80年は通過点、なんていう考え方も出てきましたね。

歯ぐきの痩せ、歯の摩耗、ヒビ、欠け、歯も黄色っぽくなるなど、若い頃には思いもしなかった変化が起きてくるんです。でも、これはある意味、自然なことです。         一

患者さんは、この変化にあるとき気付いて「あっ、たいへん!」「どうしよう!」とショックを受けることがあるのですけれど、考えてもみてください、前歯や第一大臼歯なんて、何年お使いだと思います? 「6~7歳からですよ」ってお話すると、みなさん「なるほど」と納得してくださいます。6歳から毎日使っているものなんて、身の回りにそうそうありませんものね。

定期受診で歯を大事になさってきただけあって、ご自分の歯がたくさん残っているのでしょう? だからこそ、歯の色の変化にも気づいておられる。素晴らしいじゃありませんか。

こういうとき、ご自分の歯であればとても有利なことがあるんですよ。ホワイトニングで、削らなくても見違えるほど歯をきれいにする治療を受けることも可能です。だから「歳取っちやった」なんてネガティブに捉える必要なんて、まったくないですよ。

歯は、歳とともに変化します。だからこそ、定期的に歯科医院で診てもらって、小さいうちに治療してもらえばいいし、いくつになってもホワイトニングや歯並びの矯正治療にチャレンジだってありです。これからも歯を大切にして、人生前向きにいきましよう!

 

口臭がするのは胃腸が悪いから。

「胃が悪いと口臭がする」と思っているかた、多いですね。でもふだん胃の臭いがするのはゲップのときくらいです。通常は食道がキッチリとふさいでいますからね。もし、臭いがするほど口と胃が始終つながっていたら、口臭どころではすみません。重症の逆流性食道炎になってしまいます。激しい胸焼けと痛みで働いてなんかいられませんよ。ほかに考えられるとしたら、重篤な食道がんや胃がんでしよう。もちろん、胃の検査を受けることはとても大事なのでおすすめします。一方、たいがいのかたには、そんな重篤な胃病はないと思いますよ。

というのもほとんどの場合、強い口臭の原因は「歯周病」なんですから。

進行した歯周病の臭いは、非常に強烈です。舌苔や歯ぐきのタンパク質が細菌によって分解され、揮発性のガスが発生するのですから。わかりやすく言うと、「腐敗臭」がするのです。唾液の臭いとかではなく、モアーツと攻撃的に臭います。

以前、ある企業が「上司に関するアンケート」をOLを対象に行ったんです。「仕事ができ、性格や身だしなみのいい理想の上司でも、気になるところってありますか?」って聞きました。そしたら、フケとか、いろんな選択肢があるなかで、トップになったのが「口臭、体臭」。ほとんどの人が、他人の臭いを気にしていました。

日本人は、定期的に歯のクリーニングに行く習慣がないでしょう。だから歯ぐきの歯周ポケットのなかは汚れっぱなし。歯みがきだけでは不充分。40歳くらいから中等度~重度の歯周病が急激に増えてくるんです。ビジネスエリートもエグゼクティブも、歯医者に行かない人は臭うんです。例外なくね。

「俺は理想の上司だ」なんて思っていても、じつは口が臭くて嫌われてる上司はいっぱいいます。まずは胃カメラを飲んで、つぎは必ず歯科医院へ。歯ぐきのなかまできれいにしてもらって、口臭を止めましよう。

口内炎はどうせ治るから放っておけばいい。

こういうかたが多いんで困るんですよねえ。粘膜の病気には、口腔がんも含まれるということを、ぜひ知っていていただきたいですね。

1ヵ月も治らないなんて、口内炎にしては治りが遅いと思いますよ。だって、口のなかの粘膜の細胞は、だいたい2週間もあればすっかり新しいものと入れ替わりますからね。みなさんが口内炎と呼んでいるアフタ性潰瘍なら、1週間もすれば治ってきて、つらい痛みが落ち着くのがふつうですから。

粘膜の病気の治療法としては、アフタ性潰瘍で痛いなら、ステロイド軟膏を塗れば治ります。カンジダ症ならば、抗真菌薬を塗れば治ります。アフタに似て口の周りにポツポツとできる口唇ヘルペスも痛いですが、抗ヘルペスウイルスの飲み薬や軟膏が効きます。

帯状庖疹が口のなかに出ることもあります。上あごの裏の奥の左端や右端から線状に並んでポツポツ出て、これはものすごく痛いです。帯状庖疹が出たら早いうちに皮膚科や口腔外科で診てもらいましよう。

ところが、こうした治療を受けても治らないのが口腔がんです。口腔がんは、無痛性の場合が多いです。進行しないと痛みが出ず、患者さんが油断しやすいのが困ったところです。

また白板症といって、粘膜が白い板のように浮き上がって見える前がん病変がありますが、これも通常は痛みがないので、うっかりと見逃されがちなんです。

正確な診断を受けるには、口腔外科で組織検査を受ける必要があります。がんのなかには一見アフタ性潰瘍に似ているものもあるので、しろうと判断はとても危険です。

口内炎が1週間たってもちっともよくならない、というようなことがあったら、念のために口腔外科を受診し、検査を受けることをおすすめします。

小さな前がん病変なら、「がんになる前に」と、組織検査の際に切除してもらえることもあります。検査を受けて、口腔がんを見逃さないようにしましよう。