お口の都市伝説~歯医者との付き合い方これ本当!?~

歯が丈夫な俺さ。むし歯ないし見た目もバッチリ!歯医者にはかれこれ10年は行っていない

歯が痛くないからって安心しちやいけないよ!歯医者に縁のない人に限って、歯周病が進んでいることが多いんだから。

歯が丈夫だという人に歯周病が進行しやすい理由は2つある。まず、歯医者に行かない。すると歯周病菌の塊であるプラークや、それが石灰化した歯石を取る機会がないし、歯周病に気づくのが遅れる。これが1つ目の理由だね。なにしろ歯周病はよほどひどくならないと痛くない。しかも歯ぐきのなかでゆっくり進行する。痛くなったときはすでに歯周病菌の感染によって炎症がかなり進んでいるんだよ。

もう1つの理由は、歯周病菌の多いお口は、むし歯菌が棲みにくいってこと。そのせいで、むし歯は少ないのに、歯ぐきと歯を支える骨が蝕れる、という状況になりやすい。とりあえずむし歯がなければいいや、と思う人もいるかもしれない。でも歯周病が進行すれば、歯を支えている骨が溶けちやう。溶けちやったらもとには戻せない。歯を失ってしまうかもしれないんだ。

とくに、アラフォーくらいから歯周病が一気に進行する人が多い。そのワケは、忙しくてブラッシングがおろそかになる(歯周病菌を追い出せない)、多忙によるストレス(細菌への抵抗力が弱まる)などが重なるためだと考えられるね。歯の集団健診は高校生までしかないことも多いので、それっきり歯科健診を受けないと、アラサーくらいで歯周病が進行する人もいる。歯周病は生活習慣病でもあるんだ。タバコ、メタボ、抵抗力の低下、食習慣やブラッシング習慣などいくつかの要因が重なって進んでしまう。

お口の健康は、見た目で判断しないことだね。過信は禁物です。歯ぐきがむずがゆいとか、血が出るとか、しばらく歯医者さんに行っていない、というかたは遅くならないうちに一度受診することをおすすめします。

平均寿命が80歳の現代。アラフォーから歯を失うのは早すぎるよ!まだまだ先は長いんだ。豊かな食生活を楽しむことは、人生を楽しむこと。お口のケアは自分で、足りないところは定期的にプロのケアを受けて、歯を大事にしていきましよう

先週はむし歯がマジで痛くてさ。でも我慢していたら治まっちゃった。歯医者行かずに済んでラッキー!

先週痛かったむし歯が、今週は痛くなくなった? これは喜べるような状況ではありませんよ。私が思うに、歯の内部で起きている強い炎症のために、神経が死んでしまったのでしょう。

神経が死ぬと、一時的に痛みはなくなります。痛みを感じるセンサーがダウンしたわけですからね。でも炎症はなくなりません。それどころかさらに悪化します。歯の内部に溜まった膿が、根っこの先から歯の外に押し出されて、こんどはそこで炎症が広がります。こうなると、激烈な痛みが起きることが多いのです。

大学受験で忙しいのはよくわかりますが、今すぐ歯医者さんでむし歯を治してもらうべきですね。でないと、お口のなかに爆弾を抱えたまま受験に臨むことになってしまいます。疲れたりして抵抗力の落ちたときに突発的に痛くなることもありますし、受験の当日に痛くなったりしてそれまでの勉強が台無しになってしまったら大変です。それから、いくら受験生で勉強が忙しくても、このままの生活を続けてはいけません。夜中に夜食やおやつを眠気覚ましにタラタラと食べ、そのまま歯みがきをせずに寝るなんていう生活を何ヵ月も続けたら、むし歯ができて当然です。

とくに永久歯の奥歯は、高校生くらいの年齢ではまだ生えて数年しか経っておらず、エナメル質が軟らかくてむし歯になりやすいんです。フッ素(フッ化物)も使って大事に守っていかなくては。

子どものころの歯みがきや食生活は親御さんの監督下にありますが、高校生にもなると、そうはいきません。日本では小学生のむし歯は減少傾向ですが、その子どもたちが中高生になったころから、残念なことにむし歯が急増してしまう。

この時期を無事にやりすごすことができれば、大人になってから失う歯もかなり減るでしようし、歯で苦労する人も減るはずなのですが……。

ともあれ、まずは早急に歯医者さんでむし歯の治療を受けましよう。深刻な事態を引き起こす前にね。

歯医者さんで歯石を取ったら血が出た!きっとヤブ医者だ・・・。

歯科医院で歯石を取ったら血が出て驚いたんだね。でも、逃げ出すことはないよ。歯石を取るとき、炎症を起こした歯ぐきから多少血が出るのはめずらしくはないんだ。だって、腫れた歯ぐきからは歯みがきするだけで血が出ることもあるでしょう? 

歯石とは、プラークが石灰化したもの。プラークは歯ブラシで落とせるけど、歯石になってしまうと歯にこびりついて歯ブラシでは取れなくなるから、歯科医院で取ってもらうしかないんだ。

歯石にはじつは軽石状に穴が開いていて、これはプラーク中の細菌にとって格好の溜まり場。それで歯石の周りの歯ぐきが炎症で腫れ、歯と歯ぐきとの間に歯周ポケットができるんだ。ここにまたプラークが入り込み、固まって歯石になり、さらにプラークが溜まる……と悪循環に陥る。こうして歯周病が進行するんだ。

歯周病の悪化を止めるためには、このプラーク中の細菌の溜まり場、歯石を取り除かなければいけない。みなさんも見たことがあると思うけど、歯科医院ではスケーラーという器具で歯石を取るんだ。で、このときに少々血が出ることがある。歯石の周りの歯ぐきは炎症を起こしているから、歯石を取るときに少しの刺激でも血が出るんだね。血が出るのはいやだろうけど、このまま放っておいたらついには何もしなくても血や膿が出たり、歯がグラグラになってしまう。だからプラークや歯石を取る必要がある。取れば炎症がおさまるから、出血はなくなっていくんだよ

日本人の約50%は1日2回歯みがきをしているものの、約70%は歯周病だという調査結果が出ている。つまり、歯をみがいてはいるものの、プラークは十分除去できていないということだね。

歯科医院で定期的にプロのケアを受けてプラークや歯石を取ることももちろん必要だけど、歯石になってしまう前の日々のプラークコントロ-ルがいちばん大切なんだ。毎日のていねいなケアでプラークと歯石を溜めないお口にしていきましよう!

歯石を取ったら歯にものが挟まる。歯もいっしょに削られた?

たしかに、「歯石を取ったら歯がスカスカする」と患者さんに言われた経験、私にもあります。「あんなキユンキュン音のする器械(超音波スケーラー)なんか使うから」つて。

最初にお断りしたいのは、「歯を削ったから」ものが挟まるようになったわけではない、ということ。ご安心ください、エナメル質は非常に硬く、歯石除去用のスケーラーで削って隙間を広げるなんて、とてもできる仕事ではありません。ダイヤモンド付きのバーを高速回転させて削らなければならないほど、歯は硬いんですよ。

実際は、歯の隙間を歯石がギッチリ埋めていたのでしょう。それを取り除いたため、ものが詰まりやすくなったというわけです。歯が昔より長くなり、歯ぐきもやせてきていませんか?じつはこの隙間は、歯石にまとわりついたプラークのなかの歯周病菌が炎症を起こし、歯を支えている骨を溶かすためにできるもの。歯石にコテコテに付いたプラークは慢性的な歯周病の炎症を起こします。するとあごの骨が減り、歯ぐきがやせ、歯が長く見え、歯の隙間も広がってきます。これまで気づいていなかったのは、歯ぐきが腫れ、隙間にピッチリと歯石が詰まっていたからでしょう。

このまま放置して重度の歯周病になると、歯がついには抜けてしまうので「歯石を取って炎症を止めましょう」と指摘を受けたのは当然の流れ。歯科衛生士や歯科医師は徹底的に歯石を取ります。歯を守るためにね。ただし、その副産物として、「隙間」が明らかになってしまう。一度失った骨は、なかなかもとには戻りません。「これからは歯の隙間と上手に付き合っていきましょう」としかご説明のしようがないのが残念です。

 対処法は、食後にうがいと歯みがきをして挟まった食ベカスを取り去ること。隙間が大きいなら歯間ブラシが便利です。それから、再び歯石が溜まるとさらに隙間が開いてしまいます。少なくとも半年に一度は必ず歯科医院で、クリーニングしてもらいましよう。

 

えーっ、治療が終わっても歯医者に通うって、意味分かんない!

日本では歯科の定期検診がなかなか広がりません。私も数十年来「定期検診を!」と呼びかけているおですがね。

「むし歯や歯周病は歯科医院に通って予防するのが当たり前。なぜにむざむざ病気になるまで放っておくのか?」という先進諸国で私は歯科医をやってきただけに、「治療のときだけ歯医者へ行く」という習慣にはがっくりです。しかし、あきらめず声を大にして言いましよう。「定期受診は必須です!」

むし歯というのはむし歯菌の感染によって起き、口のなかにむし歯菌がたくさんいる人ほど、むし歯のリスクが高くなります。むし歯を治したという話からすると、どうやらむし歯菌が口のなかにウジヤウジヤいるのでは? ひとまず治療を終えたそうですが、このままではまたむし歯ができてしまいますよ。

とくに、被せた歯(被せ物の土台になっている天然歯)は、削ってある分むし歯になりやすいし、土台がむし歯になればせっかくの被せ物もダメになってしまいます。何度も被せなおすと歯が傷み、抜歯の原因になってしまいますしね。

ていねいに歯をみがけば、歯科医院に定期受診しなくたって予防できると思うかもしれません。しかし今回も、歯みがきはしていたのにむし歯になったのでしょう? むし歯を止めるためには根本的に予防法を考え直す必要があるんですよ。そこで切り札になるのが定期受診です。歯科でプロフェツショナルークリーニングを受け、プラークやバイオフィルムという細菌の膜を徹底的に破壊してむし歯菌を減らすのです。フツ素塗布を受ければ歯を丈夫にすることもできます。しかも歯石除去も受けられるので、プラークが歯石に絡まらなくなり、汚れが溜まりにくくなります。そしてキレイな口になると、歯周病予防にも非常に効果があります。

 むし歯も歯周病も定期的な予防法があるのですから、痛くなってから歯科に駆け込むのではなく、定期受診を受けて歯を守りましよう。

ブラッシング指導?歯みがきなんて誰でもできるぞ。

ハハア、なるほど。ブラッシング指導が苦手ですね? 自分の足りないところを指摘されるのは誰だってイヤなものです。「なんでお金払って治療したうえに叱られなきやならないんだ」って思う、その気持ちわかりますよ。

でもね、歯科医師も歯科衛生士も、ただただ一生懸命なんです。患者さんの口のなかの環境をなんとか改善しなくてはと。

だって、このままずっと同じ口内環境だったら、またむし歯ができちやうでしよう? そうなったら、またまた治療が必要です。治療のときだけ来院する患者さんに「この機会になんとかしなくちゃ」と思ってるんです。この気持ち、ご理解いただきたいものです。

でも私たちが一生懸命になるほど、患者さんは不快に感じるのかもしれませんね。そのあたりにすれ違いが生じがちであると、われわれ歯科のスタッフは自戒せねばなりません。

ところで、「毎日歯みがきをしているから大丈夫だ」というのは、残念ですが間違いです。だって、毎日の歯みがきで予防できているなら、むし歯はできなかったはずです。だから、なにかを改善しなければ。その手段のひとつが、歯みがきのクオリティーを上げるってこと。つまり、ブラッシング指導ですね。

ただ、歯ブラシー本でなんでもかんでも予防できるという、日本に蔓延する歯ブラシ神話も、じつは困ったものなのです。口のなかには歯ブラシの毛先が届かない場所がたくさんあります。まして、歯周ポケットが4~5ミリにもなっていたら、歯ブラシの毛先では届きませんよ。

誤解しないでください。毎日の歯みがきはとても大切です。でももうひとつ重要なのが、歯科医院で定期的にクリーニングを受けることなんです。細菌が減って口内環境が改善すれば、歯科医院のスタッフの必死な指導が、叱られているようには聞こえないでしょう。うそだと思ったら試してみてください。「そういえば、あれ以来むし歯が止まったな」つて、しばらく経ってふと気づきますから。

 

フッ素塗布?もうお子ちゃまじゃないし。どうせ2~3ヶ月で取れちゃんでしょ?塗布しても無駄じゃん?サボりた~い。

中学生というと、大人の歯がほぼ生えそろつてくる時期。乳歯の抜け替わりが6歳くらいからはじまって以来、ついに一生使う歯、永久歯の完成期を迎えます。おめでとう。

それでは歯自体もすっかり大人かというと、そうではないんです。エナメル質のハイドロキシアパタイトが、まだまだ未成熟でやわらかい。つまり「お子ちゃま」で、酸に溶けやすくむし歯になりやすいんです。

歯は、長く使っているうちに唾液に鍛えられて強くなっていきます。唾液に含まれたリン酸カルシウムを取り込んで徐々に硬く成熟し、むし歯になりにくくなります。でも、そうなるまでに数年はかかるので、それもあって、永久歯の奥歯に中高生の頃からむし歯ができはじめる人は多いんです。「そういえば中学生の頃、よく歯医者に通ったなあ。あの頃が歯医者通いのはじまりだ」なんて人、結構いるのでは?

しかも生まれたての奥歯は、歯の溝も深く汚れが溜まりやすいです。使っているうちに深い溝は少しずつふさがっていきますが、若い人の歯は汚れがすごく溜まりやすい。奥歯はもともとみがきにくいうえ、生えかけだったりすればさらにみがきにくい。「やわらかくて、汚れが溜まりやすく、みがきにくい」これが中高生の歯なんです。

フッ素(フッ化物)を塗ると、ハイドロキシアパタイトがフロルアパタイトという、より酸に強い結晶に変わります。むし歯予防効果がとても高いので、この時期、フツ素塗布をぜひ継続して続けていただきたいものです。

フッ素塗布は、子どもの歯にするものだと思われがちですが、そんなことないんですよ。定期的に歯科医院でフツ素塗布をし、家では毎日フッ素入りの歯みがきを使ってください。継続的に使うことがとても重要です。

中学時代は、部活や勉強で自分を鍛える時期。ぜひ歯もフッ素で鍛えてほしいですね。将来歯で苦労する大人になるか、ここが人生の別れ道。親に反抗したって、自分の歯のことですからね。サボらないでフッ素塗布に行きましょう!

 

 

若い頃は歯が丈夫なのが自慢で、ロクにみがかなくても大丈夫だったものだが。明日からは退職金で歯医者三昧か・・・。

若い頃は歯に自信があったのに、退職後に歯医者通いがはじまった? なるほど。これは、歯周病に悩まされる中高年の典型的なパターン。じつは多いんですよ、こういう人。

日本では歯の治療に保険が利くから、わりに安く治療できるでしよ。だからどうしてもみんな予防よりも「痛くなったら歯医者に行って治せばいいや」つて思っちやうんだよね。

だから、口のなかにミュータンス菌がたまたま少なかったりしてむし歯になりにくい人は「歯医者とはまったく縁がない」というふうになりやすいんだ。こういう人、ときどきいるでしよ? ロクに歯みがきしなくてもむし歯にならなくて歯が丈夫だって人。周りからうらやましがられるし、自分も「おれは歯が丈夫だ、歯医者にはかれこれ20年行ってない」とかね、自信があるんだな。

ところが、必ずとはいわないけど、この自信が落とし穴になることも多いんだ。こういう人は、つい歯みがきが雑になる。だって経験的に、雑でも歯が痛くならないんだから。ただし、雑な分プラークは溜まるし、歯石だってつく。さらにそこにプラークがこびりつく。すると歯ぐきが炎症を起こして腫れる。これが歯周病のはじまりです。

でも歯周病は、歯ぐきが腫れて血が出たって痛くないことが多い。だからやっぱり歯医者に行かない。行けば「プラークや歯石を取って歯周病を治しましよう」と指摘されるだろうけど、その機会がないんだ。放置すると歯を支える骨も溶けはじめ・・・。

歯が弱くなったのは、歳で体質が変わったせいではないですよ。仕事で忙しかったりして数十年にわたってプラークや歯石を溜め込んできた結果、ジワジワと歯周病が進行してしまっていたんでしょう。

なんでもおいしく食べられる老後のために、いまのうちにがんばって歯周病を克服しておくのは大賛成。それから、元部下の人たちに、同じ轍を踏まないよう「定期的に歯科検診を受けておくといいよ」とぜひ伝えてあげてください。

歳をとれば歯がなくなるのは仕方がない!

たしかに、歯がなくなるのは「歳のせいだ」と思われがちです。でもこれは間違いです。歯科に定期的に通っている人や、たまたま口のなかに細菌が少ないラッキーな人は、高齢になっても自分の歯でしっかり噛んで食べてますからね。

もちろん歳とともに歯ぐきは痩せます。歯もすり減ってきます。歯を抜く羽目になることも当然ながら増えてはきます。

しかし、若い頃から定期的に歯医者に通い、寝る前にきちんと歯みがきとフロスをしていれば「歯周病でグラグラしてきて入れ歯が必要になった」なんてことはすごく減るはずです。しかも、日本ではなおさらね。

なぜなら、本の歯医者は、簡単には歯を抜きません。来院した患者さんの歯を極力残し、少しでも長く使おうと努力するでしよ? 訴訟社会の欧米ではこうはいきません。ひとまず持たせても、万が一痛くなったら訴えられちやいます。だからさっさと見切りをつけて抜いちやいます。そこへいくと日本では、よほど望みがないときでないと抜きませんからね。(しかし結局、定期受診が定着していない日本のほうが、最終的な抜歯数は多いように推定されます)

歯を失わないようにするコツは、痛くなってから受診するのではなく歯が悪くなる原因となる歯石を定期的に取り去ることです。今からだって遅くないですよ。定期受診を続けていると「あれ? そういえば最近歯を抜かないな」つてなりますから。

レントゲンは体に悪いから撮らない!

「レントゲンを撮らないで治してほしい」とは・・・・。そうお思いになるなら仕方がない。

「残念ですが、撮らせていただけないのなら治せません」て、私ならお話ししますね。

だって、どこが悪いのか、どれくらい広がっているかの見当もつかないのに、あてずっぽうで歯を削ったり、歯ぐきを切ったりできますか? エックス線写真どころか、CTまで普及しつつある時代に、そんな蛮勇は、とてもじやありませんが私は持ち合わせていません。とくに歯は、一度削ったらもとには戻らないんですから。

口をちょっと覗けば、どこでなにが起きていて、どれくらい悪いかがプロならすぐにわかるんじやないかとお思いなのかもしれませんね。しかし、実際はそんなに簡単なものではないんです。

ピタリと接した歯と歯のあいだの、外から見えないところからはじまるむし歯もあります。詰め物や被せ物の下でひっそりと広がるむし歯もる。それから、歯の根っこの先で炎症が進んでいる場合も、歯ぐきのずっと奥で炎症が起きていることだってある。歯の病気は、進行したものほど、見えないところで深く深く進んでいるんです。見たところ、なんでもないように見えてもね。

たしかに、レントゲンを撮れば「被曝」をします。放射線を浴びるわけですからね。 しかしだからといって、それが「怖いから」とレントゲンを撮らずにいたら、この辺かな? それともこの辺かな? と治療が手探りになってしまい、適当にガリガリと削らざるを得ないばかりか、ズキズキしてつらいのに、きちんとした治療を受けられません。

実際のところ、歯科医院のレントゲンの被曝量は、飛行機に乗って日本とアメリカとのあいだを往復したときに受ける自然被曝量と同程度かそれ以下だと言われています。そのリスクと、撮らなかったときに受ける不利益とをしっかり天秤にかけ、適切に選択していただきたいものですね。だからといってむやみに何枚も撮るのも問題です。しかい、必要最低限のレントゲン撮影は歯科治療に必須です。

うちの5歳の娘、乳歯がすきっ歯なの。格好が悪くてかわいそう。治療しなくっちゃ?!

お子さんの前歯のあいだにすき間が開いてきているんですね?これはすばらしい。むしろ幼稚園の年長さんくらいのお口の理想的な状態ですよ。

治療なんて、とんでもない。むし歯予防に気をつけながら、永久歯が生えてくるのを楽しみになさってください。永久歯が生えはじめると、おそらく、いま私が「理想的」と申し上げているその理由を、きっと実感していただけるでしょう。

いま5歳だというと、2歳半くらいで生えそろった小さな乳歯が、まだ生え変わらずに並んでいる状態でしようか。来年かさ来年になると、最初に6歳臼歯が生えてきて乳歯の生え変わり時期がはじまっていきます。

「小さい頃は歯並びがよかった」というのは、小さな幼いあごに、乳歯がきっちりと並んでいたからです。そして、いまは歯と歯のあいだが開いたスキツ歯になっている。つまりそれは、お子さんのあごの骨が、からだの発育とともに、バランスよく成長しているからなんです。

乳歯の大きさはそのままで、あごの骨が発育するわけですから、歯と歯のあいだに隙間ができていくのは自然のことです。子どものあごの骨では、ひとまわり大きな永久歯が生えてきてもうまく並ぶように、着々と準備が進んでいるわけです。

最近はむしろ、こうした準備が充分に進まず、あごの骨が小さいお子さんが増えていることのほうが問題になっています。ファストフードや、カレー、ハンバーグなどが好まれて噛む回数が減っていること、外遊びが減って運動量が減っていることなどの影響ではないかといわれています。その結果、歯並びの悪いお子さんが増えているのです。

スキッ歯の隙間をレジンで埋めて格好良くする治療自体は、技術的にはたしかに可能ですが、こうした治療は、永久歯の前歯の歯間が気になるかたに向けた審美治療です。もうすぐ抜け変わる乳歯を治療する必要はまったくありません。

この頃のお子さんは、スキッ歯独特の愛嬌のあるかわいい笑顔ですよね。せっかくですからぜひ心配しないで、この時期の笑顔を楽しんでいただきたいと思います。