お口の都市伝説~歯周病これ本当!?~

歯ぐきが腫れて痛くて参ったよ。でも平気になってきたぞ?歯医者をキャンセルしちゃお!

どうやらその症状は歯周病だね。疲れたときなんかに、一時的に歯ぐきが腫れて痛むんでしよ? で、放っておくと症状が治まる。何度か繰り返しているようだし、このままではまずいなあ。

歯周病は「沈黙の病気」と呼ばれているの、知ってる? まったく痛みがないままゆっくりと炎症が進んで、歯を支える骨が破壊され、ついには歯を失ってしまうという困った病気なんです。

とはいってもまったく症状がないわけではない。歯ぐきから血が出たり、歯ぐきが浮くような感覚があったり。でも痛まないから放っておく人が多いんだよね。で、もっと進んじやうと、からだの抵抗力が落ちたときなんかに、ワッと急性の症状が出るんだ。歯ぐきが腫れたり、膿が出たり、痛んでとてもつらい。

だけど、からだに抵抗力が戻ってくると、急性の炎症は治まって痛みも引っ込んでしまう。一見治ったように見えるけど、これは残念ながらそうではない。歯周ポケットのなかで炎症を起こしている歯周病菌を徹底的に減らさない限り火元は消えないし、歯を支える骨はジワジワと破壊され続けてしまう。だから、その予約をキャンセルしないで、どの程度の病状なのか、ぜひ診てもらわなくちや。

治療方法は、手間と根気はいるけど非常に明解。ポケットのなかや歯の根についた細菌の巣「プラーク」(歯垢)を取り除き、歯周病菌を減らして炎症を止める。スケーリングやルートプレーニングという外側からの掃除で治療するんだけど、あまりに深くプラークが入り込んで外側から掃除しきれないときは、歯ぐきを切開し、すみずみまできれいにします。

これらは細菌を減らすのが目的だから、じつは患者さんの歯みがきも立派な治療なんだ。でも、深い歯周ポケットの奥に歯ブラシは届かないし、プラークが石灰化した硬い歯石は自分じゃ取れないからね。そこで、われわれの腕が必要となるわけ。

 ただ、治療には限界がある。重度だと手の施しようのないこともあるんだ。手遅れにならないうちに治療をはじめよう!

歯周病?ああ、歯ぐきの病気ね。歯みがきするといつもちょっと血が出るだけさ!

歯周病を歯ぐきだけの病気だと思ってますね? 大いなる誤解です。歯周病は、たしかに最初は歯ぐきが腫れるだけ。でも進行すると歯を支える骨がなくなって、歯が抜けてしまう。しかも相当悪くならないと痛くない。だから逆にこわいんです。

歯みがき後、短時間で血が止まります。そのたびに治った気がするのかもしれませんが、それも間違いです。炎症は治ってない。治ってないから次の日も血が出る。毎日みがいているのに、なぜかつて?

歯ブラシが届かない歯ぐきの溝の奥までプラーク(細菌のかたまり)が入り込んでいるからですよ。歯周病のごく初期、歯肉炎なら、溝が浅いから汚れも溜まりにくく歯ブラシが届くかもしれません。でも、毎日血が出るような状態が続くと溝が深くなり、奥に歯石がガチガチに付いてそれにプラークがからみつく。こうなると、どうやったって自分では取り除けないのです。

歯周ポケットのなかの汚れがひどくならないように、毎日の歯みがきで口を清潔にすることは、もちろん必須です。でも、隠れたところもきれいにしないとダメ。しつこいバイオフィルム(細菌とタンパクなどの膜)や歯石を歯科で取ってもらわないと。まさにボンドやコンクリートのようにくっついているのですから、プロにしかできない仕事です。

日本人が清潔好きだなんて、本当ですかねえ。何年も歯石を取らずに平気な人、いっぱいいるでしょう。口のなかですよ? 細菌がウヨウヨで炎症まであるのに。まだまだ歯科の啓発が足りないんですね。我々歯科医は猛省せねばなりません。

このまま放っておくと将来は入れ歯ですよ。日本では最低限の入れ歯なら保険でできますが、でもだからって、入れ歯になってもいいやと思っているわけではないでしょう?

周りの年輩のかたに聞いてみてください。入れ歯でどんなに不便な思いをしておられるか。悪くなってから歯医者に行けばなんとかなる、と勘違いするのは、そろそろやめなくちやいけませんよ。

「タバコを止めましょう」って歯医者がいうんだ。歯周病が悪化するかって。でも、腫れてもいないし血も出てないし。平気平気。

歯周病なのに歯ぐきが腫れていないっていうのは、喫煙者、とくにヘビースモーカーにはありがちなことなんだよね。なぜかつていうと、ひとつは、二コチンの作用で血管が収縮して血行が悪くなるから。歯ぐきが軽い貧血状態になっているので、腫れにくいんです。

それから、免疫機能が低下するってこともある。歯周病菌に攻撃されると、ふつうなら炎症が起きて、歯ぐきが腫れたり血が出たりするよね。これは、からだが歯周病菌を「異物だ」と認識して戦おうとするから起こるんだ。炎症というのは、免疫機能が働いてからだを守ろうとすることで起きるわけです。

ところが、タバコを吸っていると、免疫機能が低下しているから、歯周病菌がたくさん攻めてきても、からだが「異物だ」つていう反応をちゃんとしてくれないんだな。で、攻められているという認識が薄いからしっかり戦ってくれない。だから結果的に腫れにくいし、血も出にくい。困っちゃうよね。「腫れていないから大丈夫」と思いたいだろうけど、炎症が起きていないようでも、歯周病菌がいれば被害は確実にこうむっているむしろ免疫力が劣えている分、病気の進行はノンスモーカーより早いんだ。歯周病の怖いところは、歯ぐきが腫れるだけでなく歯の周りの骨が溶けてしまうこと。ヘビースモーカーは病気の自覚が遅れがちなうえ、悪化するスピードも早いから、その分歯周病で歯を失うリスクが大きいんだ。むし歯の治療をしたときに、歯周病もいっしよに発見できてさいわいでした。治療のために撮ったエックス線写真に、歯を支えている骨が溶けているのが写っていたのかもね。さっそく歯周病の治療をはじめましよう。治療で歯周病菌を減らして、歯周病の進行を止めることです。この際、タバコも値上がりしたことだし、思い切って禁煙にチャレンジしたら? 口のなかも、からだも、健康を維持するには自己管理から。夕バコを止めて免疫機能が回復すると、治療の効果もグツと上がりますよ。

 

歯周病で血が出るときは歯ぐきに溜まった悪い血を出しちゃうといいらしい?!

硬い歯ブラシで思いきりこすった? ただでさえ炎症で充血して歯ぐきが破れやすくなっているのに、硬い歯ブラシでゴシゴシみがいたら。表皮はズルむけだな。気の毒に……。「悪い血は出しちやったはうがいい」なんて、それは昔の民間療法? 歯周病を治したいなら、歯ぐきを破って傷つけて出血させても百害あって一利なし。案の定、痛みで歯みがきできなくなっちやったんでしょ? まいったね。しばらくは、歯みがきするのがつらいでしょう。

歯周病でブヨブヨになった歯ぐきは、悪い血が溜まって腫れているんじゃないんだ。口のなかの細菌のせいで、歯ぐきに炎症が起こって腫れているんですよ。

歯ぐきを赤黒く腫らす細菌は、歯にベタペタつくプラークのなかにウジヤウジヤいる。だから、歯ぐきの腫れを治すいちばん効果的な方法は、口のなかをよく掃除してプラークを取り、細菌を少なくすることなんだ。どんな人の口のなかだって、1日たてばプラークが溜まる。そこで毎日歯ブラシでていねいに掃除をすることは、単なるケアにとどまらず、歯周病の大切な治療でもあるんだ。だから毎日のていねいな歯みがきは、歯周病治療の大前提です。

硬い歯ブラシでゴシゴシすると、痛いからすみずみまでていねいに掃除できないでしょう。だから、歯ぐきの腫れている人にはことに、軟らかい歯ブラシを奨めます。毛先を歯と歯ぐきの境目にやさしく当て、細かく震わすように動かすと、軟らかい毛先が歯のすき間によく入り込んで、しっかりプラークを取り除いてくれるからね。

それから、プラークは歯ぐきの溝やポケットのなか、その周りに溜まった歯石にも入り込んでいる。歯石は自分では取れないから、歯科医院できれいに取ってもらおう。そうすると歯ぐきの溝やポケットのなかに隠れた細菌も掃除することができる。

しばらくは痛いだろうけど、歯みがきをサボるとますます腫れちやうから、軟らかい歯ブラシでソフトなお掃除を続けてください。そして歯石取りが終れば、みるみる腫れが引いてピンク色の歯ぐきに。楽しみですね。

歯ぐきが赤黒くブヨブヨ。血も出てしまって。それで毎晩粗塩でマッサージしているの。歯ぐきも若々しく。ピンクに引き締めなくっちゃ。

漬け物じゃないんだから、歯ぐきを塩漬け(?)にするなんて、どうかと思うね。赤黒くてブヨブヨしているって?歯ぐきが腫れている? どうやら歯周病だな。

 歯周病は、プラークのなかに棲む歯周病菌が炎症を起こす病気なんだ。だから、このブヨブヨを治すには、口のなかから歯周病菌を追い出すしか方法はない。昔の日本人は塩で歯みがきをしていたし、たしかに塩には殺菌作用がいくらかある。でも、歯ぐきに塩を塗りつけてマッサージするだけでは歯周病菌を殺せはしないし、腫れも引かないでしょう。しつこい歯周病菌を殺すには、もっと強い殺菌力が必要だからね。

それに、歯周病菌はプラークのなかにひそんでいて、歯や歯ぐきにくっついたり、歯ぐきの溝やポケットのなかにも隠れることができるんだ。歯ぐきの腫れをとるには、ていねいに歯みがきをして、プラークをかき出すこと。塩をこすりつけて揉んでも、すき間に入ってべ夕べ夕と付くプラークまでは落とせない。それと、深いポケットの奥に入り込んで、隠れて悪さをする歯周病菌は、自分ではなかなか取れないから、歯科医院で取ってもらうといい。顔の手入れにしたって、化粧水や保湿クリームを塗ってマッサージをするのは、洗顔をして化粧や汚れを取り除いてサッパリしてからでしよ? 歯周病菌を溜め込んだままマッサージをするのは、汚れた顔にいきなりクリームを塗ってマッサージをするようなものだよ。

だから、これを治すには、まずは口のなかの歯周病菌を少なくしなくちや。マッサージでいくら血行がよくなっても、歯周病菌の出す毒素が減らなければ、歯ぐきの腫れは引かないからね。

目新しいことがなくて申し訳ないけど、なんといっても、ていねいな歯みがきが重要。それと、やっぱり一度歯科医院に行って診てもらっておいたはうがいいね。歯ぐきが腫れるだけの歯肉炎の段階なら、歯科医院のクリーニングと歯みがき指導で、2週間もすればすっかり元通り、ピンクの歯ぐきが戻ってくるよ。さらに症状が進むと治療がたいへんになってしまう。ホームエステだなんて言ってないで、悪いこと言わないから、なるべく早く受診しましよう。

強烈に口が臭うって、娘に嫌がれるんだ。でも大丈夫。今はいいスプレーがあるからね。シュシュっと、ミントの香りでブレスケアさ!

息が魚の腐ったような強烈な臭いがする?それはたしかにハタ迷惑だなあ。はっきり教えてくれた娘さんに感謝したほうがいいよ。自分の息の臭いには、ご本人はすっかり順応してしまっていてなかなか気付かないんだから。会社の人たちは、よほど我慢してくれているんじやないのかな。

口臭には大きく分けると二通りあって、ひとつは生理的な口臭、もうひとつが病的な口臭なんです。生理的な口臭というのは、朝起きたときに誰にでもある硫黄温泉のような軽い臭い。食事したり、お茶を飲んだりしてふつうに生活をはじめれば気にならなくなる程度。周りの人も不快に思うほどのものではありません。お口が健康な人でも、この程度の口臭ならごくふつうにあるので、これは心配いらないです。無臭の人間なんてこの世にはいないんだから

問題は病的な口臭。魚が腐ったような臭いがするというなら、おそらくこちらが当てはまるんじやないかな。こういう強烈な臭いの原因の多くは、進行した歯周病なんですメチルメルカプタンや硫化水素やジメチルサルファイドという強烈に臭う揮発性硫黄化合物のガスが発生するから。歯周病の原因である歯周病菌は嫌気性菌といって空気を嫌う性質がある。だから歯周ポケットの奥深くや舌苔にひそんで繁殖する。上皮細胞や白血球が分解されて、この強烈な臭い物質が出るんだ。

これを口臭用のスプレーでごまかそうとしても、強烈なガスとさわやかなミントの香りが混ざり合ってかえって複雑な臭いができあがるだけ。根本的に消臭されるわけじゃない。

病的な口臭を消すには、その原因を元から断たなきやダメ。まずは歯周病の治療をして歯周ポケットのなかをきれいに掃除しなくちゃ。お部屋の消臭だって、腐った生ゴミを放置したままスプレーなんかしても意味ないでしよ。それと同じです。だから、まずは歯科医院で自分のお口がどんな状態なのかを診てもらって治療をはじめましよう。もちろん歯みがきも有効。それと舌ブラシで舌のお掃除をするのも、細菌を減らせるので有効です。

出産すると歯がわるくなるよね~。赤ちゃんがカルシウムを使っちゃうからしかたがないのよ、母親の宿命だわ。

たしかに昔からよく言うよね。でもこれ、じつは迷信。お腹の赤ちゃんのせいで悪くなっているわけじゃないんだ。ただし、妊娠中にむし歯が増えたり、歯周病が悪化したりっていう人は実際多いだろうね。

原因のひとつはヶアの問題つわりがあると歯ブラシを口に入れるのがつらくなるでしょう。プラークが溜まれば細菌が増えてむし歯になりやすいし、歯周病も進行しやすいです。つわりには個人差があるけどね。それから食事や間食の問題。妊娠中は、つわりやお腹が圧迫されるせいで、ちょこっとずつ何度にも分けて食べることも多い。結果的に、細菌にしよっちゅうエサを与えることになるよね。実際のところ、妊娠期の女性には、間食の回数が増え、酢っぱいものが好きになって唾液が酸性になり、口内環境が悪化しやすいという特有のリスクがあるんです。

さらにもうひとつ。妊娠すると女性ホルモンのエストロゲンの分泌が増えるんだけど、歯周病菌はこれが大好き。ホルモンをエサにして増殖します。歯周病菌の出す毒素によって歯周病が悪化するのはもちろん、この毒素がじつは早産や低体重児出産に影響を与えることも明らかになっています。歯周病菌の毒素が血液内に入ると、それが子宮を剌激し、赤ちゃんを早く生ませようとしてしまうんだ。

妊娠中の口のなかは、ただでさえ細菌が増殖する環境がバッチリ整っている。細菌にとっては「機は熟せり」つて感じだからね。だけど、妊婦さんは身体的なストレスを強く受けているわけだし、無理もないんですよ。だから、とくに歯周病の人は、妊娠前に治療を済ませておいてほしいし、健康なお口の人もふだんからスケーリングやPMTCで細菌を減らしておいてほしい。そうすれば、妊娠中のむし歯や歯周病を予防できるし、早産のリスクも減らすことができるからね。それから、第一子を早産したり未熟児だったりしたかたは、念のためお口の状態を調べてもらうとよいでしょう。

歯科健診で歯周病だって。歯周病ってオッサンの病気じゃねえの?おれ、まだ中1なんですけど。

たしかに歯周病つて「大人の病気」つていうイメージが強いよね。ところが近頃は、若年層の歯周病が増えているんだ。以前は考えられなかったことなんだけれど、15~19歳の30%以上に歯ぐきから血が出る症状があることがわかっているんです(「歯科疾患実態調査」2016年)。

この変化のもっとも大きな原因は、食生活の変化だと思う。日本の伝統的な食事は、玄米、大根やゴボウなど食物繊維が豊富な食材が多く含まれて、よく噛まなければ食べられなかったでしよ。歯周病は、歯にべ夕べ夕付くプラークのなかの細菌が炎症を起こすことによるものだけど、食物繊維は歯にペタペタ付かず、むしろ擦って掃除してくれるし、よく噛むと唾液がタップリ出て洗い流してくれる。結果的に口のなかの自浄作用が高くなる。

ところが今はスパゲティやハンバーガーのような、軟らかくて歯にベタベタ付く食事が人気。しかも噛む回数が減れば、その分唾液が減ります。自浄作用がガクッと落ちてしまう。細菌のエサになる甘いものも豊富。つまりプラークが増えやすく溜まりやすく、歯周病にもなりやすい食生活になっているというわけ。もちろん、からだの抵抗力が細菌の攻撃力にまさっていれば炎症は起きません。そのへんは若さでカバーできるかもね。でも、細菌が口のなかに多量にありすぎたり、塾通いや夜更かしで疲れていたりすると、細菌の攻撃にからだの抵抗力が負けてしまって、炎症、つまり歯周病がはじまってしまうんだ。

中高生くらいだと、歯がグラグラするような重度の歯周病はまれで、まだ歯周病の初期症状の「歯肉炎」の人がほとんど。歯肉炎は歯ぐきの腫れだけで、歯を支える骨は失われていないから、今のうちに治せば、歯がグラグラするようなことはないよ。でも、このまま放っておくと悪化して将来歯が抜けちやう。だから歯医者さんで上手なブラッシング方法を教わってプラークコントロールをして、歯ぐきのピシッと引き締まったカッコいい大人になってください。