お口の都市伝説~むし歯これ本当!?~

むし歯予防のためには甘いものは食べてはダメ!?

むし歯を心配し甘いものを我慢しているかた、私の患者さんにもおられました。「先生はどうやって我慢していますか?」って聞かれたこともあります。

私、甘いものを制限などしておりません。我慢なんてとてもできませんもの。甘いものって食べると(ハッピーになり、元気も出るでしょう?じつは甘いものって、賢く上手に食べればむし歯の心配はいらないんです。それで私は患者さんにこんなふうにお話しています。「食べてもいいですよ。ただし、タラタラ食べないでくださいね」って。

理想としては、食後のデザートとしてまとめて食べるのがベスト。というのも、食後のお口のなかは酸性になって歯が溶けやすい環境になるのですが、唾液がしっかり働けば30分もすると酸が中和され、むし歯になりにくい状態に戻るんです。ところがしょっちゅう食べているとお口のなかは始終酸性になるので、むし歯ができやすくなってしまうんですよ。だから、食後にまとめて食べるのがおすすめ、というわけです。ただ、甘いもの好きとしては、おやつもほしいですよね。そういうときは午前・午後に一度ずつ、チョコをつまむくらい平気ですよって指導しています。「なにか口に入れるなら、1日5回まではよいでしょう。でも7回以上になると、むし歯のリスクが増えますよ」という食事指導は、北欧を中心に研究実績のあるむし歯の予防法なんです。

食後のデザート+午前・午後に1回ずつ。甘いものを食べるならこんな工夫をしましょう。もちろん朝と就寝前にフツ素(フツ化物)配合の歯みがき剤を使い歯みがき。とくに就寝前は念入りに。昼食後も歯みがきができれば、さらにすばらしい。お子さんの場合も、食べ方を工夫すれば、砂糖を制限せずにむし歯予防ができます。しかし、小さいころに甘い味を覚えさせないようにすることができれば、それに越したことはないですね。とは言っても甘いものは人生の喜び。食べ方+仕上げみがき+定期検診で、楽しく予防を続けてくださいね。

 

穴があかなければむし歯ではない!?

お子さんの歯、白濁しているようですね。これは「初期むし歯」といって、まだ歯に穴ができてはいないけれど、すでにむし歯がはじまっていますよ、というサインです。

「初期むし歯」つて聞き慣れない言葉かもしれません。最初は表面がスムースなまま白濁がはじまり、歯をエアでシユーツと乾かすとよく見えます。もう少し進むと、白濁した表面がちょっとザラザラした感じになってきます。こうなると、ツバでぬれていても見えます。もっと進むと褐色になったり、小さな穴があいてきます。

むし歯の進行って止められるんですよ。穴があいてしまえば削って詰める治療も考えますが、初期むし歯の段階で進行を止めれば穴はあかずにすむし、もちろん削る治療もいりません。

初期むし歯なら、時間はかかるけれど、透明感のあるもとどおりの歯に戻ることもあります。このためには、歯医者さんで指導を受けたり、治療(削らない治療)してもらったりして、そのあとも定期的に診てもらうことが必要ですね。

歯科健診のとき、歯医者さんが早口でいろんな記号を言うでしょう? そのなかに今は「CO」というのがあります。これは、初斯むし歯が疑われる歯を「要観察の歯だな」とチェックする記号です。「将来削って詰めずにすむように、今のうちに歯医者さんに相談してむし歯の進行を止めてね」という意味なんですよ。

以前の歯科健診では、穴があいた段階からをむし歯としてカウントしていましたが、現在は初期むし歯の段階から見つけて歯を守っていこうという考え方になっています。

おっしゃるとおり、むし歯はしっかり削り取って詰めるのが最上の治療だと考えられていた頃もありました。でも歯を削って詰めても、いつかは治療のやり替えが必要になる。だから今はその頃の反省に立って、穴があく前に対策を打って進行を止めちゃおうという考え方に変わってきているんです。ひとまず削らずにすんで本当によかった。歯医者さんといっしよにお子さんの歯を大切に守っていってくださいね。

神経を取ったのに、噛むと違和感。ちゃんと神経が取れていない!?

むし歯が進んで歯のなかにある神経に近づくと、冷たいものや温かいものに敏感になります。さらに進むと、冷温に反応してやがて歯が痛み出します。この痛みが一時ですと、まだ神経を取らなくて済むので、むし歯の部分だけを取って、そこに詰め物をして治療が終わります。でも、冷温の刺激に対して痛みが一時でなく、しばらく続くようになると、細菌がかなり神経を侵していることになりますから、残念ですが神経を残しておくことはできません。放ってておくと痛みが激しくなり、やかて神経は死んで歯のなかで腐っていきます。このため、神経を取る治療が必要になります。まず麻酔をしたあと、針のような道具に神経を引っかけて取り除きます。前歯にくらべて奥歯の神経は複雑で取りにくく、細い針に引っ掛けて少しずつ取り除くことになります。これは歯医者さんにとってとても根気のいる難しい治療です。神経を取った後は、神経が通っていた根っこのなかをきれいにし、詰め物でしっかり封鎖して外から細菌が入ってこないようにして根の治療が終わりです。

さて、神経を取ったあと、噛むとジワーンとした違和感があるとのこと。「歯が浮く感じがする」と表現する患者さんもいますが、神経を取っだのになぜ噛むと歯が痛むのか疑問を持たれる患者さんも少なくありません。しかし、神経を取ったあとのこうした症状は、ある程度避けられないものなんです。

「神経を取る」という処置ですが、これは小規模ながら、歯の神経を生体の一部からちぎって取り除いているわけです。いわば外科処置ですから、歯の周囲にある神経や、歯を包んでいる歯根膜などについた傷が癒えるまで、多少の違和感は仕方がない面があります。ですから順調に回復するよう、神経を取ったあとはやわらかいものを食べて、安静に過ごしてください。

それでも痛みがさらに増すようなら、もしかしたらほかに何か問題があるのかも。治療を受けた歯医者さんに遠慮なく相談してください。

うちの娘、小さな頃からむし歯だらけ。じつはあたしもそうなの。歯が弱いのは私の遺伝ね!?

「親の歯が悪いから、歯の質が遺伝して子どももむし歯になりやすい」なんて信じているかたもいらっしゃるようですね。でもお子さんにむし歯が多いのは、遺伝のせいではありませんよ。むし歯はむし歯菌の感染によって起こる病気なんですから。生まれたばかりの赤ちゃんの口のなかには、むし歯菌も歯周病菌もいません

ですから、そのままいけば、一生むし歯にも歯周病にもならないはずです。とはいえ実際には、そんなことはまずありません。家族がいっしよに暮らしていれば、家族の口のなかの菌がうつります。よくあるのが、親が子どもに離乳食を食べさせるとき、親が使ったスプーンを子どもに使ってむし歯菌がうつるケース。子どもが大きくなってからだって、親が使った箸やコップを子どもが使えば、親の口のなかの菌がうつります。むし歯だらけのお父さん、お母さんが使ったむし歯菌がウジャウジャついたスプーンで子どもにごはんを食べさせれば、子どもの口のなかもむし歯菌でいっぱいになってしまいますよ。

また、家族は生活習慣も似ているものです。タラタラ食べをする、いつも甘い飲み物を飲んでいる、歯みがきをおろそかにするなど、家族みんながむし歯になりやすい生活をしていれば、口のなかの環境はますます似てくるでしょう。そうは言っても、家族のスキンシップは日常生活のなかで欠かせないものです。

そこで、むし歯や歯周病をうつさないためには、家族ぐるみで口のなかを健康な状態にしておくことです。スキンシップをなくそう、なんて神経質にならずに、むしろ日ごろのていねいなセルフケアに加えて、定期的に歯科医院でプロのケアを受けて、愛する家族のために口のなかのむし歯菌を減らしましよう!。

それから、ご両親の努力で、むし歯菌が少ないむし歯ゼロのお嬢さんが育ったとしても、大人になってからむし歯菌をうつされることもあります。口のなかがどんな状態かもわからない見ず知らずの人とキスするなんて、口の健康を考えればもってのほか。お嬢さんの合コンの前には、相手グループに唾液検査をしてきてもらいたいくらいですよね、親としては(笑)。

子どもにキスなんかしちゃ絶対にダメ。むし歯菌がうつっちゃうんだからね!?

お子さんのむし歯予防に一生懸命なおかあさん。すばらしいですね。「むし歯が細菌による感染症だ」なんて、よく勉強もなさってがんばってますよね。たしかに、生まれたての赤ちやんのお口のなかにはむし歯菌はいません。それなのに大人になるころには、ほとんどの人のお口のなかにむし歯菌が棲みついています。私たちは、育ってくる過程のどこかで、後天的に周りの大からむし歯菌をもらっているのです

むし歯の多いかたのお子さんにむし歯が多いと、「歯の弱いのが似た」なんてよくいいますよね。でもそういうとき、私たち歯科の専門家が心配するのは、むしろ、親御さんのお口にたくさんいるむし歯菌が、お子さんにたっぷりうつっているんじやないか?、ということです。軟らかい乳歯がむし歯になったり、生え変わった永久歯につぎつぎにむし歯ができたりして、結果的に、親御さんと同じような、むし歯の多い人生を歩んでしまうことがあるからなんです。

ただ、そうはいっても、親御さんがお子さんを抱っこして、頬ずりしたリキスしたりしてかわいがれる時期というのは、過ぎてみれば本当に短い、貴重な時間ですからね。むし歯予防のために、スキンシップを制限しなくてはならないというのは、ちょっと残念ですよねえ。

そこで私が提案したいのが、スキンシップを制限するのではなく、むしろご両親のお口のなかから「むし歯菌を減らす」という方法なんです。ご両親が、歯科医院で定期的にお口の健診と歯のクリーニングを受け、ブラッシング指導もしてもらうといいんですよ。お口のなかのむし歯菌がぐっと減りますからね。そうすれば、食事のときにスプーンの共用を避ける程度で大丈夫。キスくらいしたって、どうってことありません。赤ちゃんを大切に思う気持ちを中心にして、輪を描くようにむし歯予防が広がっていくといいですよねえ。おじいちゃんやおばあちゃんも巻き込んで、ぜひはじめてみてください。

この子、むし歯があるって。どうせ抜け替わるんだしこのままでもいいか!?

乳歯のむし歯ですか。乳歯は軟らかくむし歯が進みやすいうえ歯の溝は深く、歯の間にも食べかすが挟まりやすいので、放っておくと悪くならないかと心配です。

というのも、乳歯のむし歯はじつは永久歯の健康に大いに影響するんです。乳歯はいっぺんに生え変わらず、順番に生え変わっていきますよね。もし、むし歯の乳歯が残っていて病原菌がウヨウヨいるお口に、エナメル質が未成熟で若い永久歯が生えてきら……?。

それから、乳歯のむし歯は永久歯の成長をジャマすることがあります。乳歯のすぐ下では次に生える永久歯が作られていますが、乳歯の歯根までむし歯が広がると、永久歯の赤ちゃんにダメージを与えてしまうのです。歯の形が正常に育だなかったり、エナメル質が十分に育たなかったりすることがあります。

また、乳歯は永久歯に生える位置を案内するガイド役も担っています。むし歯が進行し乳歯の形が崩れていると、永久歯の生える場所がズレてしまうのです。たとえば、永久歯の6歳臼歯が生えるとき、隣の乳歯が崩れていると、本来の場所より前に詰めて生えてしまいます。すると、後続の永久歯の場所が足りず、歯並びが悪くなってしまいます。

ですから、はじめての歯医者さんはドキドキでしょうが、一度診てもらったほうが安心でしょうね。それもなるべく早いうちにね。そのほうがより小さな治療ですみますし、ごく小さなむし歯なら、歯科医が定期的に診て、フッ素(フッ化物)などを使って進行を止めれば、永久歯に生え変わるまで治療なしでうまく保たせられることもあるんです。

上手にお口の管理をし、小さな治療ですませれば痛くないしラクなんだということを幼い頃に知ることはとても大事なことだと思います。歯医者さん嫌いになると、大人になってもつい検診や治療が後手にまわって、歯で苦労しやすいのです。永久歯が生えてから、などと言わず、乳歯のころから予防のための受診をはじめてください。

シーラントしたほうがいいのかしら?かえってむし歯になるって話も聞くけど?

お子さんの歯みがきが思うようにいかず、ご心配なお母さん、お父さんは多いんじやないでしょうか。

仕上げみがきのときジツと口を開けていてくれれば助かるのですが、そうはいきません。まして自立心が芽生えてからは、仕上げみがき自体をさせてくれなくなりますよね。

しかし、生えたての乳歯や水久歯は軟らかく、とくに奥歯はまだ摩耗していませんから噛み合わせ面のデコボコも大きい。むし歯菌の出す酸に弱く、汚れも溜まりやすいです

なかでももっとも心配なのが「小高裂溝」という奥歯の細く深いミゾなんです。歯ブラシが届かないほど深く、いくら歯みがきを頑張っても掃除することができません。歯みがきプラス、何か工夫が必要です。そのひとつめは、フッ素(フッ化物)を使って歯を丈夫にすること(フッ素なら唾液といっしよに「小高裂溝」のなかに届きます)。ふたつめは、シーラントという歯と同じ色の樹脂(レジン)でこのミソをバッチリ埋めて守ってしまうことです。

これなら汚れが溜まりませんし、酸にもさらされないのでむし歯になりにくく安心です。ただし、毎日しっかり噛んで食べているとシーラントは傷みますし、ときどき欠けたり取れたりすることもあります。

「シーラントをするとかえってむし歯になりやすい」というのは、欠けたり、取れたりしているのに気が付かないで油断していると、汚れが溜まってむし歯になってしまうよ、という意味なんです。シーラント自体がむし歯の原因になるわけではありませんのでご安心ください。そこで、シーラントをしてからも、定期検診を受けて、欠けたり取れたりしていないか、チェックしてもらうことがとても大事です。そして毎日歯みがきで汚れを落とし、フッ素を使って歯を丈夫にしていきましょう。

シーラントは、むし歯のリスクの高いお子さん(唾液検査を受けるとわかります)にはとくにおすすめ。歯が軟らかくむし歯になりやすい時期を上手にしのぎましょう。

生えたての赤ちゃんに歯みがきは必要ない!?

お孫さんがかわいくて仕方がないんですね。でもね、私は子育て中のお母さまがたにこうお伝えしています。「ちっちゃな前歯が生えてきたら、1日に一度でよいので、ぜひ歯みがきをしてあげてくださいね」つて。

赤ちゃんは、まだ飴もチョコも食べないし、歯みがきしなくても大丈夫なんじゃないかとお思いかもしれません。でも、歯の表面や、歯と歯のあいだには汚れが溜まるんです。とくに哺乳瓶やマグがいつもあたる前歯は注意が必要な場所なんですよ。

赤ちゃんが動き回って歯みがきするのが難しい、と困っているなら次善の策として、「歯と歯のあいだにフロスをして、あとはガーゼで拭いてあげてみては?」とアドバイスしています。ホルダーについたフロスを使うとササツとできておすすめです。

お母さまがたからよく聞かれるのが、「フツ素はいつ頃から使えばいいですか?」という質問です。歯が生えてきたら、フツ素(フツ化物)入りシェルなどを使いましよう。生えたての歯にはフツ素の効果がより高いんですよ。安心して使っていただきたいですね。歯ブラシや、ガーゼにつけて使うといいですよ。フロスも忘れずに。

ただし、奥歯が生えてくる頃にはガーゼは卒業です。噛み合わせの溝を歯ブラシでよくみがく必要が出てきますから。もちろんフロスはそのまま続けましよう。

反抗期の2歳近くになってから、甘いおやつが好きだからと急に歯みがきをはじめても、なかなかうまくいかず、歯みがきが嫌いになってしまうこともあります。赤ちゃんの頃からお口のなかを触わられることに慣れさせておくって大切です。

この調子で仕上げみがきを続けれむし歯ゼロで成人を迎えるのだって夢じゃありません。

赤ちゃんの頃からの口腔ケアをおすすめしている歯科医院も増えています。世代間でもしも意見が割れたら、一度相談してみるのもいいと思いますよ。